医局員コラム

ブロツワフ大学表敬訪問とセミナーの開催 大阪大学医学部皮膚科学教室
准教授 室田浩之
 2015年4月26-27日、ブロツワフ大学皮膚科学教室(ポーランド)のJacek Szepietowski教授と私ども教室の片山教授のご厚意により、ブロツワフ大学表敬訪問とセミナー開催が実現した。両先生に感謝申し上げたい。
まずSzepietowski先生(以下敬意と親愛を込めてJacekと呼称させていただく)とのご縁についてご紹介する。
Jacekとは2011年の6th World Congress on Itch (WCI)におけるレセプションで始めて会った。WCIは痒み研究者の集まりであるInternational Forum of Study for Itch (IFSI)のもと、2年に1回開催される学術大会である。Jacekはその年からIFSIの理事長に就任された。
その2年後、Ethan Lerner教授主催の7th WCI(Boston)において片山先生がIFSIの理事に就任され、同時に片山先生が8thWCIを主催されることに決まった(http://www.itchnara.jp)。小生はその事務局長を拝命し、以後Jacekには頻繁に連絡をさせていただいている。4月のHOME meetingで欧州に行く機会を得たため、Jacekから招聘をいただき片山先生よりご配慮いただいたというのが今回の経緯である。
ポーランドのブロツワフはワルシャワから西南へ約350キロの所にある。ワルシャワから鉄道でもアクセス可能だが、文化都市の認定を受けて空港が整備された。私達が着陸したブロツワフ空港は新しく、大変近代的な空港であった。23:00という夜中にも関わらず、Jacek自らが迎えに来てくれたのには大変感激した。
翌日はJacekの教室の女医さん、Dr. Iwonaがブロツワフ大学を案内してくれた。Iwonaは皮膚科医になって15年目のベテラン医師だ。彼女の車で大学を回ることになった。市内には多くの大学施設がありいずれも歴史的建築物だ。市街地の人口の約2/3にあたる10万人は大学生なのだそうだ。大学が長期休みに入る時、市街地は閑散となるらしい。大学本校の入り口はインディゴブルーの基調に金の装飾を施された扉に驚かされる(写真1、下)。


さらに教室の荘厳な雰囲気に驚いた(写真2、下)。


ドイツ学派の影響を受けながら著名な演奏家を招いての音楽の授業も行われたそうだ。(写真3、下:大学の屋上からの風景。右から2人目がIwona)


さて、医学部は教室ごとに独立した建物があり、皮膚科は「皮膚・性病・アレルギー学」という名前の建物だった(写真4、下)。


この施設だけで外来・入院そして病理から検査まで全ての業務が独立して行われる。この建物は19世紀終盤に建てられたのだそうだ。最近郊外に新しい病院ができ、一部の教室はそちらに移動したらしい(写真5、下)。


Iwonaは、皮膚科は古い建物に残れてラッキーだったという。27日の朝、8:30に皮膚科施設に着いた。ここでは外来業務が8:00に始まる。すでに多くの患者が殺到していた。出迎えてくれたJacekは早速広い教室に案内してくれた。そこはムラージュが展示されている大変古い部屋だった。すでに30名近いドクターが集合していた。すぐに私はJacekから依頼のあったテーマ、"Dermatology in Japan"というタイトルの講演を開始した。日本の近代的西洋的皮膚科学の確立には日本皮膚科学会の創立者でもある土肥慶蔵先生が大きく貢献された。土肥先生はウィーンのKaposi先生の元で近代的な皮膚科学そしてムラージュの作成方法を学ばれた。日本に帰られる前にブロツワフ大学に移られ、勉強されたという。私が案内された教室(写真6、下)で講義をした日本人は3人目で、一人目が土肥先生、二人目が高森健二先生との事であった。大変な名誉という事の余韻に浸る間も無く講義を開始した。日本の皮膚科医によって始めて報告された疾患とどの病態、疫学的背景にみる近年の日本における皮膚科診療の実態、そして汗に関する話題をご紹介した。


セミナー終了後にムラージュの見学をさせていただいた(写真7、下)。


ドイツのムラージュも展示されていたがブロツワフ製の方は明らかに描写が細かく、そのクオリティの違いは一目瞭然だった。教授室に呼び入れられると、Jacekは診療の最中で、患者の診察を一緒にしようと言う。最近オランダからポーランドに移住して来たという小児の顔面四肢に、米粒から小豆大までの掻痒を伴う孤立性丘疹が散在していた。一部は消退後に色素沈着を伴っている。診断は何か、の問いにGianotti-Crosti症候群、痒疹、毛虫皮膚炎、histiocytosisなどの鑑別を述べた。Jacekの診断はジアノッティだった。
山賀先生、進藤先生のレポートにもあるように、入院病棟は小児専用まで70床、その時は65人の入院患者がいた。入院病棟は壁色が穏やかで、とても癒される内装だった(写真8、下)。


外来は小児皮膚科、女性専用外来、皮膚外科外来まである。小児皮膚科では最近脱毛の患者が急増しているらしい。その背景には精神的ストレスがあるとJacekはいう。治療はステロイドの外用あるいは内服を行っているそうだ。日本と違い、アトピー性皮膚炎はマイノリティとのこと。最後にJacekが進藤先生に「手術の見学がしたいですか?」と問うと進藤先生は二つ返事で「of course!」と答えた。そのお陰で手術室の見学も叶った。ガウンを来て手術室に。症例は女性の鼻唇溝に出来たBCCだった。術式は全摘とアドバンスドフラップによる再建である。Dr. Bieniekによって患者の背景、皮膚生検の病理組織結果、マージンの設定、手術症例専用の院内写真管理システムの説明がなされた。そして長径5cmはあったフラップのデザインだったが局所麻酔からものの10分程度で手術が終了した。術後に皮膚の切開線も見えない、その完成度にも驚いた。山賀先生、進藤先生ともにポーランドの皮膚科学のパワーを感じた。

以上、ブロツワフ大学表敬訪問の内容をご紹介しました。あと、これは裏話ですが、当初Dermatology in Japan の講演内容は日本の風呂文化をからめて話をするつもりでした。出発前に片山先生が臨床的な内容に変えてみては?とアドバイスくださったのでドラスティックな内容の変更を行いました。その結果、聴衆に喜んでいただき、うまく行ったので本当に良かった・・・片山先生に感謝申し上げます。風呂についてはその一部を"皮膚科の臨床"の巻頭言に書いてみました。興味のある方はまたご一読ください。

(写真下9、10:Iwonaは旧市街地のヨハネ大聖堂近くにある像を案内してくれた。そして山賀先生と進藤先生に「あの天使の中に皮膚疾患を患ったものがいます。あなたの診断は何?」と質問を投げた。一人alopecia totalisの天使がいたのだ。Jacekの話でも子供に多いと聞いた。Iwonaとの会話はその伏線となった印象深い出来事だった。)




平成27(2015)年5月4日掲載