この一週間のメモランダム |
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学 教授 片山一朗 |
この一週間で4つの研究会の座長を勤める機会があった。最初の会は富山大皮膚科の清水忠道教授の光老化と骨髄性ポルフィリン症に関する講演で、ここ最近はアレルギー、乾癬やざ瘡、ヘルペス、免疫チェックポイント薬など、この一年間、新規薬剤の登場で、メーカー主導の講演が多いが、清水教授のお話はスポンサー色のない学術的なお話で久しぶりに、内容の濃い講演であり、大学関連の若い先生とっても、普段、なかなか聞くことのできない有益な講演会であったかと考える。昨日の痒み国際シンポジウムも基礎から臨床迄痒み研究の最前線の研究会でこちらも、若い先生から退官された先生迄痒み研究の好きな先生方の活発な質問が飛び交う充実した研究会で、皮膚科、麻酔科、腎臓内科、神経内科、基礎生理、解剖学、企業研究者など多様な領域の先生方が有益な情報交換をされていたのが印象的だった。逆に形成外科、透析内科の先生による救肢を目指すフットケア研究会、リウマチ・膠原病医の先生による関節症性乾癬の研究会は、どちらも他科の講師による皮膚疾患に関する講演だったが、チーム医療の中での皮膚科医の存在感がゼロで、この領域の診療に関する皮膚科医の役割を再考する良い機会でもあった。前者は高齢化社会で患者の増加が予想されるが、在院日数や収益に対する介護やマンパワーの問題から積極的な治療介入が敬遠されがちな領域の疾患でありその予防、治療、長期管理をチーム医療として行う上で、皮膚科医の果たす役割は大きい。また後者は生物製剤に加え、これから続々と登場するB
細胞を標的とする膠原病治療薬の登場でその診療内容が大きく変わることが予測される中、皮膚症状に加え、生命予後に関わる全身疾患の管理や治療方針の決定に皮膚科医がどこ迄参加するべきかが大きな問題になるかと考える。生物製剤に続き、免疫チェックポイント薬を始めとして次々と高額治療薬が登場する時代となった。これらの薬剤の今後のあり方を考えると臨床的には2つの問題点があるかと考える。一つはこのような高額医療が適用される疾患、患者の選択、使用法で、その点に関しては免疫チェックポイント薬で、現在議論が進んでいるがその将来像は見えてこない。開発の多くに関わってきた欧米、特に米国ではオバマケアによる国民皆保険制度では保証されない高額の医療費を支払えない中間層の医療ローン破綻者の増加を招いていることが明らかにされている。(引用) アメリカではこれらの高額医療はまず富裕層で使用されるのは明らかでその使用法の検討が皆保健制度の整っている日本で行われているとの話も聞こえてくる。もう一つの問題点はこれらの高額医療が圧倒的な臨床的な効果を発揮することが明らかにされつつあり、普及してきたガイドラインが整備されれば、診断がつけばあとは誰でも治療が可能となることは自明であり、そこにAI診断が普及し、対面医療が緩和されれば処置が必要でない領域の専門医は不要になるかもしれない。実際米国の大病院、大学は皮膚科専門医はコンサルタントとして実際の医療現場での治療に関与しなくなりつつあるとの話を留学から帰国された先生から聞いた事がある。その先にあるのはさらに進化したAIと医療の現場で患者に診療にあたる総合医になるのかと思う。先に述べたリウマチ・アレルギー・自己免疫疾患を例に挙げると、TNFなどのProinflammatory
サイトカイン、抗体産生に関わるB細胞、IL4/13を標的とする治療薬などが整備されればスーパーリウマチ専門医、スーパーアレルギー専門医、将来的にはスーパー総合医が多くの難治性皮膚疾患を治療しだすのは近いと考えるのは私だけではないと思うし、その動きは既に始まっているようである。そのような事を考えていたこの一週間であったが今朝嬉しい事があった。室田浩之先生の皮膚科臨床医としての確かな眼によるアトピー性皮膚炎患者の汗の指導に関する長い、地道な研究成果の重要さが皮膚の日の今日,天声人語(2017年11月12日)で取り上げられた。
|
||||||||
大阪大学皮膚科教授 片山一朗 平成29年11月13日 |