教授コラム  

第42回日本研究皮膚科学会
会頭:佐野栄紀高知大学皮膚科教授
会場:高知カルポート
会期:平成29年12月15〜17日
テーマ:「We've Got Science Under Your Skin」
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗



佐野先生が会頭をされた第42回日本研究皮膚科学会(JSID)に参加した。この学会が始まり41年となる。私が皮膚科医になった前年、1976年にその前身皮膚科研究会が設立され、1981年から現在の研究皮膚科学会として、正式の学会になった。私にとっては当時、日本免疫学会が最も重要な学会であったが、1985年に米国の研究皮膚科学会(SID)とJSIDがワシントンでJoint Meetingを開催し、その時にOral presentation を行った時から、参加するようになった。今回、名誉会員に選ばれ、スピーチでもそのことに触れたが、今、この学会が大きく成長し、国際英文誌を持ち、300題を超える演題が集まるようになり、また英語での発表と質疑応答が普通に行われるようになったのは歴代の理事長、事務局長、雑誌委員長などのご尽力によるところが大きく、深謝したい。特に初期の組織作りに尽力された水野信行名古屋市大名誉教授、三嶋豊神戸大学名誉教授、JDSの初代編集員長の小川秀興順天堂大学理事長の功績は大きく、本学会の発展に 大きな 貢献をされたことに新めて改めて謝意を表したい。この会期中に2023年の第8回国際研究皮膚科学会(IID)が椛島健治先生を会頭に、日本で開催されることが決定されたが、佐藤先生、森田先生、椛島先生や島田、天谷前理事長のご尽力に敬意を表したい。今回の会頭を務められた佐野先生が挨拶の中で述べられているように今回のテーマを「We've Got Science Under Your Skin」とされ、フランクシナトラの歌で有名なジャズの名曲「I've Got You Under My Skin」から取られたと述べられている。また「皮膚の科学をぎゅっと抱きしめたい、との意を込めました。」とも書かれているが、今回のプログラム内容を見ると、まさに佐野先生が抱きしめられた皮膚の科学の豊穣な世界が繰り広げられており、表紙を飾った、お父上の佐野榮春先生の「死海のほとり」と合わせ、佐野先生が考え、また楽しんでおられる「Investigative Dermatology」を若い世代の先生方に示されたのかと思う。また、招待会から懇親会、Tea time concertまで素晴らしいジャズを提供して頂いた河西さんのウッドベースの音色と講演の合間に佐野先生が選曲されたジャズの名曲が流れ、高知の風景、医局員の方の日常風景もスライドで紹介されており、学会で疲れた頭や体を癒やして頂いた。


Diploma of Dermatological Scientistを受賞された楊飛君と佐野会頭、片山

 肝腎の皮膚科研究のプログラムは座長や講演、会議が重なり、免疫の三宅先生、高濱先生の講演を聞き逃したが、2日目午後の「Frontier symposium」の」5名の先生方の講演はお一人の持ち時間は少なかったが、皮膚科医にとっては毛や爪の再生や色素細胞幹細胞の最先端のお話で、普段なかなか聞けない素晴らしい講演ばかりであった(PDF参照1)。特に高橋先生のメラノソーム輸送の話は我々が現在行っている研究の参考になった。また谷奥喜平メモリアル講演で講演されたGillet教授のLL37などの抗菌ペプチドが乾癬やSLEなどの疾患の最初の引き金を引く可能性を述べられた。これは我々が現在検討している白斑の発症機序に近く、うまく白斑の動物モデルが出来れば是非検討したいと考えている。また高知大の片岡先生(p01-14, C07-3)の口演でimiquimodの外用でSLE様のモデルが誘導できるがTLR7のk/oでは発症しないこと、基剤中のisostearic acidによるInflammasome刺激皮膚炎が乾癬病変の誘導に重要であること、基剤にこの成分が含有されていないresimiquimodではSLE様の自己免疫誘導は生じるが、乾癬は誘導されないことを報告された。白斑のをモデルからはNALP1遺伝子変異による皮膚マイクロビオーム刺激の自己免疫機構の誘導に加え、酸化ストレスなどによるInflammasome刺激が白斑発症の引きがねになるのかもしれない。また浜松医大の藤山先生の演題(P04-05,C05-3)はステロイド抵抗性の乾癬の病態にMDR-1( Multi-drug resistant gene)を発現したTh17細胞が関与する可能性を人の乾癬組織から増幅したT細胞の解析で示された。このような研究は貴重で、今後の展開に期待したい。以前我々も同様の報告をしている(PDF参照2)北大の渡辺先生が口演された(P05-01,Plenary II-7)ではtype 17 コラーゲンの欠損で表皮IFEの増殖が増し、しかも極性が90度長軸方向になり見かけの表皮肥厚になることを示された。基底膜構成蛋白が表皮の形態に影響を与える可能性があり興味深い(E-lifeに発表とのこと)。また慶応大学の山上先生(P-01-17,C07-6)のバンコマイシン誘発性のLinear IgA Dermatitisは間接法陰性が多いがELISAのタイプ7コラーゲンにバンコマイシンを添加することで陽性率が大幅に増加することを綺麗に示された。接触皮膚炎のハプテンとキャリア-蛋白の関係にも近く、バンコマイシンとタイプ7コラーゲンの認識がどうなされるのか結合性も含め、興味深い。阪大の免疫フロンテア研究センターの荒瀬尚教授は自己抗体の産生にClass 2抗原に発現される、misfold proteinが重要であることをIgGのFc部分が自己抗原となるリウマチ因子の誘導機序をモデルにより解説され、抗リン脂質抗体症候群などの新たな抗原エピトープの紹介をされた。後半ではつい最近Nature(Nature. 2017 Dec 7;552(7683):101-105. Saito F et al.)に掲載されたマラリアでの感染防御に関わる B cell inhibitory receptorとマラリア感染赤血球表面に発現するRIFIN proteins の結合による免疫制御機構がPD-1/PDL1の関係に近いことを綺麗に示された。このほかにも興味深い演題が多くあったが、またPDFで確認されたい。ただ座長をして感じたがもう少し討論の時間が多く取れればと願う次第である。また日本語の討論でも良いかと思うし、若い方は先ず研究の面白さを日本語でも討論することでさらに研究の意欲が高まるかと思う。




プログラム(PDF1 507KB)


大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29(2017)年12月20日