教授コラム  

高知大学皮膚科での最終講義
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

昨日、高知大学の佐野教授の依頼で高知大学の4年生の系統講義(膠原病:病態解析への皮膚科的アプローチと治療の展望)と5年生を交えた教室セミナー(添付掲載ポスター)を行わせていただいた。高知大学は佐野先生が教授に就任以来、折に触れて学生講義や教室セミナーに呼んで頂き、大阪大学皮膚科の研究を紹介させて頂いてきたが、今年が最後の授業であり、佐野教授にはお礼を申し上げる。佐野教授とは学会などで会うたびに皮膚科研究や皮膚科学の将来、そして趣味の話などを交わすことが多かった。彼のピアノやお酒を楽しみながら、時に真剣に、また時に冗談まじりで高知大学での苦労話を聞くことが多かった。ここ数年、毎年高知大学を訪問するたびに若い先生が増え、研究の幅や深さも着々と進歩していることが実感できてきたが、今年は特に5年生の学生さんとのセミナー後の質疑応答が楽しく、佐野先生の教育の成果が多いに感じられた。医局の若い先生方も元気な方が増え、皮膚科の臨床、そして研究、患者さんの啓蒙活動などに真剣に、また皆さん仲良く、楽しみながら取り組んでおられる姿が垣間見えた。佐野先生の科学的であり、また文学的・・芸術的DNAが彼等に受け継がれていくのは間違いないと思い、佐野先生の就任以来のご尽力がようやく実現されてきたようで何よりである。研究に関しては、今年9月末のザルツブルクでの欧州研究皮膚科学会・ESDRで教室の先生方が素晴らしい発表をされていたが、佐野先生が会頭をされる12月の研究皮膚科学会が今から楽しみである。特に希少な遺伝性疾患の症例研究は素晴らしく、佐野先生の臨床センスを支える日頃の勉強と日常診療での精進にあらためて敬意を表する。今回のセミナーや医局の先生方から聞いた話の中では先日、京都の国際毛髪学会で大湖先生が発表されたCantu症候群の話が印象に残った。Cantu症候群は多毛、Neonatal macrosomia, a distinct osteochondrodysplasia、心肥大で特徴づけられる疾患で1992年にイタリアの小児科雑誌に報告された稀な疾患であるが、普段よほど勉強していないとこのような疾患の診断と適切な治療は行えないのは皆さん良くご存知の通りである。先日ザルツブルクで発表された中島喜美子先生、石元先生が診断されたDorfman Chanary症候群の話もその裏話が興味深かった。この症例は冬期軽快する魚鱗癬様皮疹が特徴とされ、メントール外用で軽快する疾患でその本態はまだはっきりしないが、私も一時期診療に参加していた高知のM病院で診断されたそうである。石元達士先生が昨年昆明の皮膚バリア研究会で発表された時にはUCSFのElias教授からは体部白癬と言われたそうであるが、そこからさらに検討を進められ、面白い結果が見いだされたと聞いた。いずれも希少な疾患を皮膚科医として長年鍛えてきた知識と眼で見いだし、最新の研究方法で解析し、そこから普遍的な真理を導き出し、論文化するのは佐野先生の臨床研究に共通する点かと思う。その意味で、佐野先生の研究スタイルは以前紹介した内田樹氏の「日本の反知性主義」の中で仲野徹教授が書かれた科学評論 [科学の進歩にともなう「反知性主義」]中の{「赤の女王」は走り続けるしかない}、で分析されている最近の若い研究者の研究手法や文献の探し方とは対極に位置するかと考える。

「かつて、文献情報というのは、経験的に身につけるにしても参考文献をたどるにしても、時系列的に、ある程度の歴史的経緯を伴いつつ、個人の中に蓄積されていくものであった。」… →最近はPubMedなどで限られたキーワード検索する、ダウンロード可能な文献のみしか読まない方も増えている。キーワードが限定していればそこから抜け落ちる重要な論文も多い。ただ文献主義になれと言うことではない。

「そして暗黙知が形成されていった。」
…→共通の認識基盤の無い方、あるい興味の無い方との議論は不毛である。

「生命科学の研究というのは、非常に労働集約的なものであり、実験量と成果にはある程度の相関がある。手を動かしたからといってその分だけ進むというものではないが、動かさなければ全く進まない。」
…→パソコンの前に座り、一日を無為に過ごしている方のなんと多いことか。

「その結果、不思議の国のアリスに出てくる赤の女王のように、自分自身がその場にとどまるため、すなわち、研究のスピードに追い越されないために、より一層のスピードで走り続けるしかないという状況が余儀なくされている。それも、あまり考えることなしに。」
…→前を向いているのか後ろを向いているのかも分からなくなってしまう。そして時間の流れも分からなくなってしまう。
※以上片山引用(→コメント)

高知大学発の熱いメッセージが12月の研究皮膚科学会で若い先生方に伝わることを願いお礼とさせて頂く。


大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年11月16日