教授コラム  

第4回汗と皮膚疾患の研究会(東京)
当番世話人:秀道広 広島大皮膚科教授
平成29年8月19日(土)
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 8月は昨年私が会長を務めた第25回日本発汗学会と第4回汗と皮膚疾患の研究会」が開催され、出席した。前者は神経内科、生理学の先生方がほとんどであり、皮膚科からは今年理事長に就任された東京医科歯科大学、横関博雄教授とその教室員の先生方、阪大からは私と室田先生、そして特別講演をされた浜松医大の戸倉先生くらいしか出席がなかった。来年からは横関理事長の下、臨床サイドからも出題を増やしてほしい。室田先生が報告された「血汗症の1例」は基礎の先生方も臨床の話題として興味深くとらえてくださり、議論も盛り上がり勉強になった。汗と皮膚疾患の研究会は4回目となり、若い先生方の参加が増え、活発な討論が久しぶりに楽しめた学会であった。

汗と皮膚疾患の研究会で特別講演の演者を務められた関口先生は大阪大学の蛋白質研究所の教授を長く務められ、現在はご自身が立ち上げられた寄附講座の教授として活躍されている。Stem cell nitche と BMZ〜ラミニン、幹細胞の維持機構の講演をされた(詳細はプログラム抄録参照)。前半部分では組織幹細胞の維持にはBMZを構成する蛋白、特にラミニンが重要であることを先ず紹介され、山中先生のiPS細胞の作成にもFeederとして利用されたことを話された。後半ではLabel retaining cell (分裂時間の長い幹細胞)が汗腺に多いことから、汗腺の筋上皮細胞に汗腺の幹細胞が存在することを明らかにされた。この研究では教室の室田先生が人汗腺を実体顕微鏡下で取り出すことで協力されたそうである。関口先生の作成されたラミニン関連の抗体はHPに掲載されており、必要ならアクセス可能とのことである。
 広島大学の秀先生は自己汗による蕁麻疹における汗抗原として癜風菌MMalassezia globosaが産生するMGL_1304が責任抗原として同定され、コリン性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎患者のみでなく機械性蕁麻疹患者でも抗原になるとの興味深い結果を紹介された。フロアから「汗アレルギーとするのか癜風アレルギーとするのか」とコメントがあり、またコンタミネーションの可能性などの議論があった。汗の特定の分子量を中心とする精製汗抗原にMGL_1304が存在するのは確実かと思われるが、それ以外には細菌やダニ抗原、環境抗原の存在しないことを証明しないと癜風抗原の特異性が無くなるし、また証明出来れば汗の特異性はなくなるかとも思われる。吸収実験や阻害実験は十分されているので、個人的にはなぜ強固な細胞膜を持つ癜風菌抗原のみが汗抗原としてヒスタミン遊離を起こすかとアウトグロー患者での抗体値の変動が残された興味ある点でその解明が待たれる。
以下一般演題で議論のあった演題を纏めた。

AIGA (Acquired idiopathic generalaized anhidrosis)の治療と問題点
AIGA (Acquired idiopathic generalaized anhidrosis) は難病に指定され、治療GLの策定も横関先生のご尽力で公表されているが、ステロイドパルスをどのような症例に使用し、いつやめるかはガイドラインに明記されていない。今回発表のあったAIGAは29回ステロイドパルスを施行したが無効で、患者の希望で汗が出るまでやるとのコメントが演者からあった。ステロイドパルス療法は本来急速に進行する炎症を抑える目的で使用するが、膠原病などで使用する場合が多かったが、三回以上行なうと重篤な真菌感染症などで予後不良だった症例を何例か経験している。演者は骨粗鬆症予防や大腿骨頭壊死などの問題を考えていないようなコメントで少し唖然としたが流石に塩原先生が注意されたが、演者は施行して当然との印象であった。。塩原先生は、このような研究会で注意しないと共同正犯としてこのような危険な治療法を、容認することになると、発言された。同じことはアトピー性皮膚炎などでもあり、教訓としたい。今の研修医は20世紀末のステロイド騒動も知らなくなったと九大のF教授から聞いたことがあるが、正しい知識を継承出来ない時代が来たのかと、再認識した。逆にパルス療法が無効な症例に柴苓湯が効果を示した例が報告されたが、いくつかの漢方の有効例が報告されているとのことでその共通成分は生姜,桂皮、甘草とのことで、効果の発揮機序の検討が待たれる。我々も乾姜成分が様々な生物活性を示すことを確認しつつあるが、今後科学的な根拠に基づいた生薬の臨床研究が進展していくことを願う次第である。
 AIGA患者で、ステロイドパルスにて発汗機能は改善したがチクチク感は改善しない興味深い例の報告があったが、過去の報告例でも舌疼痛症など痛覚異常の方が多く見られるとのことであった、多汗症でもepilepsyなどで活性化される大脳の部位が特定されつつあるが、発汗異常症は末梢と中枢の両者からのアプローチが必要であることを改めて認識した。

Ectodermal dysplasiaと乾皮症・アトピー性皮膚炎
 Ectodermal dysplasiaは先天的に汗腺などの付属器の低形成を示すEctodysplasin A 遺伝子EDA, あるいはその受容体EDAR, EDARR遺伝子異常よる疾患で乏毛症・乏歯症・乏汗症を3徴候とする遺伝性疾患で、
ほとんどが伴性劣性遺伝形式を示す。乾燥皮膚と時にアトピー性皮膚炎様の湿疹病変を呈する疾患である。今回東京医科歯科大学から14例の報告があった。花粉症の合併が10例、湿疹が8例、うつ熱は全例で見られた。我々の報告した症例でも見られたが (Koguchi0-Yosioka h et al. Acta Derm Venereol. 2015 ;95: 476-9.)、顔面、特に下眼瞼の湿疹病変が多いようで、眼の乾燥や花粉症の影響があるようとのコメントがあった。またある程度角層皮膚の水分が維持されるのは痕跡(?)汗腺の可能性があるかとの質問があった。Ectodysplasin Aの補充療法の治験は出生後は無効で、胎児期に治療を行う必要があり、現在アメリカでのみ胎児を対象とした治験が進められているそうであるが、日本では難しいかもしれない。

痒疹に対するヘパリン類似物質外用の効果
角層内水分量が減少し、発汗低下を示す痒疹患者でステロイド外用療法に抵抗性を示す患者にヘパリン類似物質の外用が効果を示すという報告があった。特にクリーム基剤をたっぷり外用することがポイントということは杏林大学の塩原先生が、多くの講演で紹介されている。このような難治の痒疹や紅皮症患者の多くは強力なステロイド外用、時に内服を長期に受けておられる方が多いことを報告している(Katayama I,et al. Br J Dermatol. 1996 ;135:237-40.Nakano-tahara M et al. Dermatilogy. 2015;230:62-9)。よく知られているように、ステロイドは長期外用により毛包炎や細菌、真菌感染症のリスクを上げるし、皮膚萎縮やバリア障害も生じる。フロアからもピティロスポルム毛包炎や汗腺炎の混在を指摘するコメントがあったが、生検や細菌培養がなされておらず、議論は深まらなかった。私もコントロールとして密封による保湿効果やステロイド中止そのものの効果も検討すべきとコメントした。また今後、クリーム製剤から匂いの原因となっていたチモールが除去されるととのことで、より検討が進むと考える。
 関連演題として、高齢者の紅皮症患者で発汗低下、掌蹠の著明な角化と真皮深層の汗の貯留の見られた例が報告された。アトピー性皮膚炎でも、全身の湿疹病変のある患者で発汗低下や掌蹠の異汗性湿疹、角化の見られるが、深層で汗がリークする理由と皮膚症状との関連性、デッキチェアサインとして健常部が残る理由を質問した。アトピー性皮膚炎でも発汗低下例で肘窩、膝窩の湿疹病変が少ないことを報告したが、デッキチェアサインも同様に保湿が保たれるためと考えている。
Takahashi A et al. Decreased sudomotor function is involved in the formation of atopic eczema in the cubital fossa. Allergol Int. 2013 ;62(4):473-8.
 ヘパリン類似物質の抗炎症作用、バリア障害改善作用効果をin vitro、in vivoで検討した研究が報告された。ヘパリン類似物質を外用後テープストリッピングで角層を回収し、解析した結果では、角層内のIL1αが減少していたとのことであった。ヒトケラチノサイトがIL1αを分泌するか質問した。昔やっていた研究ではL1αはヒトケラチノサイトからmRNAは検出できるが蛋白は細胞を壊さないと検出できなかった(Horiuchi Y, Bae SJ, Katayama I. FK506 (tacrolimus) inhibition of intracellular production and enhancement of interleukin 1alpha through glucocorticoid application to chemically treated human keratinocytes. Skin Pharmacol Physiol. 2005 Sep-;18::241-6.)。また培養系でヘパリン類似物質が溶液中で作用するか? IL1αはバリア維持にも効果があり他のサイトカインの動きも検証するべきとのコメントがあった。

タイトジャンクション (TJ) 構成蛋白と皮膚の炎症性疾患
阪大からは山鹿先生が汗管でのタイトジャンクション構成蛋白であるClaudin3 k/oマウスで汗の漏出が起こることをビオチンを用いたEx vivoの綺麗な実験系で証明された。実際に生体マウスでの結果がどうなるのかが提示されず、抜去した汗管、汗腺での実験結果であり、周辺組織との関連性や組織浸透圧、抜去での刺激の影響も考慮する必要があるかとも考える。また全身の主要な外分泌腺組織では液成分の漏出は生体への深刻な影響も考えられ、TJ蛋白の異常が生じたときの代償機構の検討が必要かと質問したが、胆管では構成TJの異常は重篤な先天性の胆管炎を生じるそうである。私は以前からシェーグレン症候群に興味があり小唾液腺でリンパ球浸潤が浸潤する例を見ることも多い。この現象は診断基準にも記載されているが、山鹿先生のデータから推測すると唾液の漏出が先で口腔内の病原細菌が間質に拡散することが慢性唾液腺炎の病因になっているのかもしれない。また唾液の中には様々な抗菌ペプチドも存在し、シェーグレン症候群患者では其の産生低下も予測され、さらに病態が進展するのかもしれない。Th17 細胞がシェーグレン症候群患者の唾液腺や皮膚組織に多く浸潤していることは我々も報告している(Itoi S et al. Immunohistochemical Analysis of Interleukin-17 Producing T Helper Cells and Regulatory T Cells Infiltration in Annular Erythema Associated with Sjögren's Syndrome. Ann Dermatol. 2014 ;26:203-8)。またTh17 細胞が塩化ナトリウムで誘導されるという興味深い論文がNature に掲載されており、汗の漏出もTh17細胞の誘導に関与しているのかもしれない。山鹿先生にはアトピー性皮膚炎のみでなく乾癬や他の自己免疫疾患などでも汗の漏出、抗菌ペプチドの動態、Th17/ Tregバランスの動態を検討して頂きたい。
Kleinewietfeld M et al. Sodium chloride drives autoimmune disease by the induction of pathogenic TH17 cells. Nature. 2013;496(7446):518-22.
Binger KJ , et al. Immun ometabolic Regulation of Interleukin-17-Producing T Helper Cells: Uncoupling New Targets for Autoimmunity. Front Immunol. 2017. 21;8:311.
Nanke Y, et al. Detection of IFN-γ+IL-17+ cells in salivary glands of patients with Sjögren's syndrome and Mikulicz's disease: Potential role of Th17•Th1 in the pathogenesis of autoimmune diseases. Nihon Rinsho Meneki Gakkai Kaishi. 2016;39(5):473-477


大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年8月24日