教授コラム  

2016年、新人歓迎会。「考え、想い、創造する」
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗


 今年も、新しく皮膚科学を生涯の職業とされる先生方を迎える季節となりました。2004年にスーパーローテートシステムが導入され、来年からは先行きは不透明ですが、後期研修医制度の開始にともなう研修プログラム作成が基盤18学会で進行しています。今年は7名の方が大阪大学皮膚科と、その関連施設で研修を開始されることになっており、4月6日、歓迎会を銀杏会館で開きました。教室、関連施設に、新しい活力をもたらして頂けるかと期待しています。
 さて今、ウェッブ上でヒフミル君と」いう、アプリが広まっているようで、「皮膚の写真と患者情報、あらかじめ決まっ」いる項目を入力して送信すると、12時間以内に皮膚科専門医(どのような専門医か不明)から無料で診断のアドバイスを得られるということのようです。同じような「メミル君」という眼科サイトもあるらしく、このような画像診断の精度の向上にともない、診断のみでなく、対面診療によらない治療の可能性に関しても、国の政策として進められる事が予測されています。私が以前、長崎大学に勤務していた頃、長崎県の離島で、皮膚科医がいない地域の診断の補助として、画像を送ってもらい、大学の診断を返送するシステムを開始しましたが、その当時の医師法で対面診療以外は違法という事で立ち消えになった事を思いだしました。ただイギリスで長くアフリカやインドでの診療支援をされていたR教授はアフリカではイギリスから皮膚科医が看護師に指示を出し,診療しているとの話をされていました。私が皮膚科を選択した理由はいくつかありますが、将来はコンピューター技術やロボット医療がいくら進歩しても皮膚科と精神科だけはその疾患の多様性、4次元的な病因論などによる診断の困難さ、そして診療医の工夫による独自の外用治療が主体である事から医師の対面診療が無くならないと考えた事があります。その対極として星新一のショートショートにありそうな、機械に簡単な問診表を挿入し、腕をさしいれるだけで心電図や血液検査が行われ、ボタンを押すと薬がでてくる機械が、近い将来、実用化されるのではと考えた事もあります。
 先に述べた最近の大きなニュースとして人工知能(Artificial intelligence)が絶対勝てないと考えられてきたプロの棋士を敗ったという記事がありました。クローン人間、宇宙エレベーター、ロボットなど次々とSFの世界が現実化しつつあり、その中で日本では手塚治虫、星新一、海外ではフランス、ナント市で生まれたジュール・ベルヌが彼の作品の中で予測した事の多くが実現しています。特にベルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という有名な言葉を残し、世界中の少年少女に夢と希望を与えました。同様に、元大阪大学総長の山村雄一先生が残された、「-夢みて行い,考えて祈る-」は多くの若い医学者に研究する事の厳しさと、面白さを伝えています。
  今年、新たに皮膚科医の道を選ばれた先生は、大きく制度の変わる時期の中での選択でもあり、時代の流れを肌で感じ、皮膚科医として生涯をかけられる病態、疾患を見つけ、楽しい皮膚医生活を送って欲しいと心から思います。難治性の皮膚疾患はまだまだ多く残されており、立体画像の送信などの進歩が予想される人工知能医に負けない、人にしかできない技量を持つ皮膚科医として、臨床であれ、研究であれ、考え、想い、そして何かを創り出して頂く事を願って、歓迎の言葉とします。



新人と大学スタッフ 2016.4.6

平成28年4月掲載