教授コラム  

Vitiigo International Symposium
Rome November 30~December 3, 2016
Presidents: Mauro Picard Alain Taieb
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

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12月になり、一年の成果を取り纏める時期になった。今年は1月のバンコクでの国際協力事業に始まり9月のウイーン、リヨン11月のポートランドでのモンタナセミナーへの参加など海外出張が多かった、その最後となる白斑学会がローマであり種村、壽、楊先生姉弟、島田先生の6名で参加した。
私は2005年に開始された白斑治療の世界的な評価基準を策定するメンバーとして、学会と並行してPicardo教授の勤務されるローマ San Gallicano Dermatology Institute - Cutaneous Physiopathology and Metabolomic Centre, (Italy) 病院で行われたPremeeting にも山形大学の鈴木民雄教授と参加した。この評価委員会は今まで年に1~2回国際学会開催時に行われており、世界からスキンカラーの異なる皮膚科医が集まり白斑の定義がまず策定され、その後活動性の評価がVASIやVES, VDAI等の有用性をネットカンファレンスも含め検討されてきたが、今回は実際の患者をそれぞれの国の皮膚科医が評価し、写真判定での評価との比較検討が行われた。
また韓国のBae先生を中心としたグループから400例以上の顔面白斑のウッドランプ使用写真をコンピュータ上でB/Wに変換し、イメージアナライザーで解析することで治療前後の評価がより定量的に行えることを発表し、大きな反響を呼んだ。またその過程でVitiligo confettiと呼ばれる非毛孔一致性の小型白斑が活動性や拡大の評価に有用であるとの議論があった。ちなみにこの病院~研究所は皮膚科が主体で、そこに癌研究所が併設されており、驚くほど多くの最新の機器を備えた研究室と職員が勤務しており。テレビやITを通じて喧伝される経済危機に喘ぐイタリアの姿は見えてこず、また市内も平穏であまり東洋人観光客や難民らしき人にも会わなかったが、山形大学から参加されていたH先生が地下鉄内で危うくバックパックからの盗難を免れられたそうである。
 学会は4つの招待講演、口述、ポスター発表の150題近い演題が発表され、質疑応答も活発に行われた。白斑に特化した国際的な学会は従来3年ごとに開催されてきた国際色素細胞学会の中での発表しかなかったが、今回初めて、ピカルド教授、タイ―ブ教授のご尽力で開催された国際白斑学会の意義は極めて大きいと考える。前々回のボルドーでの国際色素細胞学会で、我々が白斑でのIL17A産生細胞の存在を報告し、IL17Aが線維芽細胞やケラチノサイトからTNF, IL1,IL6を誘導し、MITFを制御することを明らかにしてから、白斑の病態研究が大きく変化してきたのを今回の学会でも感じた。エジプトやインド、中東などいわゆるスキンカラーの高い国での研究者は白斑の評価法(ウッドランプなどによる病変の定量化)、新たなバイマーカーの検討、新しい治療手技(吸引蓋水疱からのメラノサイト移植や新たなレーザー機器)などの成果を発表した。またハーバードのJohn HarrisはCXCL9,CXCL10などIFNγ誘導性のケモカインが白斑の発症に重要であり、その血中濃度がバイオマーカーに使えることや、その受容体であるCXCR3陽性T細胞を除去する抗体の臨床治験が開始されたことや、JAK1/2, JAK1/3阻害薬の白斑への応用の現状を紹介したが、最初の引き金を引くIFNγ産生細胞がResident memoryT細胞なのかケラチノサイトなどの皮膚構成細胞なのかははっきりしないようである。
これは今、乾癬治療で注目をあびているIL17A 産生細胞がどの細胞から、どこで産生され、どう乾癬発症にかかわるのかはっきりしないことや、あらたなメラノーマの免疫チェックポイント薬が実際のヒトの免疫システムにどう影響を与えるかの検討がマウスでのデータを中心に行われ、ヒトでの解析が不十分なことと同様かと考える。我々の教室からは楊怜悧先生が白斑患者でMelan A特異的なCD8細胞が存在し、また制御性T細胞が実際に患者で低下していることを明確に証明された。壽先生は免疫チェックポイント薬誘発性白斑の組織学的な検討を行い、よりCD8による細胞障害性が強いことを報告した。(ボルドーからも関連演題としてVitiligoidという診断名で発表があり、このタイプでは顔面、頸部など露光部に強いとのことであった。
島田先生は白斑の経過中にARB/サイアザイド合剤による白斑黒皮症の一例を報告し、組織学的には白斑に比し、CD8細胞が少ないこと、いづれのタイプでも肥満細胞の増加と脱顆粒像が著明であることを報告した。私が高橋彩先生に代わり、ポスター発表したロド白斑や免疫チェックポイント誘発白斑でも同様の現象が見られ、今後のさらなる検討を行いたい。タイ―ブ教授からはなぜ脱顆粒しているのに痒みがあまり著明でないかとの質問があったが、脱毛症でもPausのグループが同様の現象を報告していることや韓国のLee、ボルドーのKhaledから発症時や再発時に痒みの見られることのコメントがあった。種村先生はパジェット病での白斑 楊飛は樹状細胞の動態を発表した。
今回の学会には韓国のLee教授、Kim、Hang台湾ノLan、中国のFloraなどが参加されており。2018年に私が会頭を務める第2回東アジア白斑会議の運営や4か国で白斑の定量的な解析を共同研究として進めること、今回の白斑シンポジウムを国際的な学会へと発展させる議論などもあり大変有益な会であった。会期の4日間、朝から深夜の懇親会まで毎日学会場に缶詰状態で、英国留学時以来37年ぶりのローマだったが、帰国当日朝、国立博物館とカピトリーノ美術館を訪れることができ、ガリアのローマを楽しむことができた。来年8月にはデンバーで国際色素細胞学会もあり、より多くの日本人研究者が参加されることを期待する次第である。


懇親会にて。イタリア語しか話さないシシリー島からの先生、韓国の若手の先生方と。


唯一観光できたカピトリーノ美術館にて


講演する壽先生

平成28年12月8日