教授コラム  

第115回日本皮膚科学会総会
会頭 中川秀巳  東京慈恵会医科大学皮膚科教授
会場 京都国際会議場
会期 2016年6月3日〜6月5日 
テーマ —Never Ending Dermatology〜発展し続ける皮膚科学〜
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 第115回日本皮膚科学会総会が6月3日から6月5日までの3日間、夏を感じさせる京都国際会議場で開催された。会頭の中川秀巳教授、事務局長の石地尚興先生には大成功のうちに大会を終えられたこと、心より御礼を申し上げたい。今大会のメインテーマは「Never Ending Dermatology〜発展し続ける皮膚科学〜」で、中川会頭自らシンボルマーク共々どこかから持ってきたと言われていたが、先生御自身の皮膚科学に対する考え方が感じられる良いテーマであった。また今年は東京慈恵会医大皮膚科教開講120周年にあたることで大変おめでたい年の総会開催とのことで同門の先生方もおおいに士気があがったことと、お祝い申し上げる次第である。
会頭講演とテーマ


「19世紀のSt Thomas Hospital と記念メダル」

また、東京慈恵会医大は英国のSt.Thomas Hospital(Kings College of London)との姉妹校とのことであり、その縁で今回の土肥メモリアルレクチャーを皮膚科主任教授であるJonathan Barkar 教授に決められたとのことであった。
中川先生は講演の中で、慈恵医大の開祖は高木兼寛で1881年)5月1日に創立された成医会講習所に始まると紹介された。彼は当時日本海軍で問題になっていた脚気が森鴎外などが唱える感染症ではなく食事中の栄誉バランスの悪さ(後に鈴木梅太郎により発見されたビタミンB1の摂取不足が脚気の原因と明らかにされた)とし、パンとカレーを海軍に導入し、栄養改善をはかる事で脚気を海軍から無くし、今の横須賀海軍カレーが誕生したとのことで、あらためて明治時代のドイツ医学と英国医学の対立の原点を知る事ができた。やはり19世の近代医学の黎明期の話はいつ聞いても興味がつきない。会頭講演に引き続き、皆見賞の受賞講演、教育講演が漸次開始された。
高木兼寛とCreamer (Kings College)

今回の総会は中川会頭と慈恵医大のスタッフの方々のご尽力で、昨年までの総会に比べて随所に変更点が見受けられた。最も大きく変わったのは久しぶりに一般口演が行われ、またポスターは全てe-posterとして閲覧することになったことである。ただ質疑応答がe-posterではできない事や、〆切が学会開催2週前?で若い先生にはややタイトなスケジュールだったようである。教育講演は、研修医向けと専門医向けに分けられ、質疑応答もある程度座長采配にまかされていたことで、座長の力量が多いに反映される教育講演となった。あとから聞いた話では聞きたい演題が朝早くに売り切れ、聞けないセッションも結構あったようで、事前の申し込みの採用やある程度、人気のありそうな講演は広い会場にするなどの工夫が必要である事を来年の仙台での総会の事務局長の山﨑先生には伝えておいた。
 講演、演題については、私自身、今回委員会、会議、座長が多く、聞きたい演題がフォローできず残念であった。教育講演では、「発汗異常と皮膚疾患-知らないと冷汗かきますよー」での、川崎医大川崎病院の青山裕美先生の「痒疹に対するヘパリン類似物質外用の効果」を興味深く拝聴した。軟膏よりクリームが効果のあること、たっぷり外用することで、ストロンゲストクラスのステロイドが無効であった多数の改善例を紹介された。ラップなどの保湿作用だけでは改善せず、またフロアからの質問で軟膏よりクリームが有効の理由じゃ現時点では不明との答えであったが、クリーム中に含まれる成分のチモールなどの効果なども考える必要があるかと聞きながら考えた。またこれも驚いた報告で、アミロイド苔癬に効果があった例を紹介された。座長の塩原先生のコメントでは外用開始後1W位で組織学的な炎症反応を認め、その後アミロイド沈着も消失するようである。我々も以前トコレチナート軟膏がアミロイド苔癬に効く例を報告したが、同様に一過性の炎症反応を認めた。   (Terao M1, Nishida K, Murota H, Katayama I. Clinical effect of tocoretinate on lichen and macular amyloidosis.  J Dermatol. 2011 .38(2):179-84.、昨今、スポンサードシンポやセミナーはメーカの意向が強く反映されるようになり、興味を引く発表が減ったが、今回は若手の登用が多く、好評であった。また従来無かった学際的なシンポも私が担当した「痛みと痒みを解き明かす」やノーベル賞受賞者の大村智先生の講演など7つの特別企画が組まれ、来年以降の総会でも同様の企画の継続を御願いしたくなるような興味深い講演が目白押しであった。
またポスター賞の中でWilliam Epstein賞を教室の加藤健一先生が受賞された。この賞はUCSFの教授で日本とも親交の深かったEpstein教授のご寄附によるもので、過去以下の4人が受賞されている。
第111回総会 江崎仁一先生  (九州大学)
第112回総会 平郡真記子先生(広島大学)
第113回総会 稲葉豊先生   (和歌山医科大学)
第114回総会 三宅智子先生  (岡山大学)
第115回総会 加藤健一先生  (大阪大学)


島田理事長から賞状を授与される加藤先生
今回のもう一つのトピックは座長などのWelcome receptionが京都駅近くの京都水族館で開催された事で、中川会頭選定の貴重な伏見のお酒が振る舞われた。夜の水族館は初めての経験であり、十分に楽しませて頂いた。また今回は、座長や特別講演演者の写真をモデルにフィギュアが作成され、後日届けられた。FBなどで似ている、似ていないと多いに盛り上がったようでこれも慈恵医大のスタッフのアイデアかと思い、お礼を申し上げます。


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平成28年6月掲載