医局員コラム
第66回日本皮膚科学会中部支部学術大会
会頭:錦織千佳子 神戸大学教授
会期:平成27年10月31日ー11月1日
会場:神戸国際会議場
テーマ:輝く皮膚科学
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗



 神戸大学教授、錦織千佳子先生が昨日まで神戸国際会議場で開催された中部支部学術大会に出席した。先日ご逝去された佐野榮春先生(1963年)、三島豊先生(1991年)、市橋正光先生(1998年)がそれぞれ会頭を務められ17年ぶりの神戸での開催とのことであった。テーマは錦織教授の専門である光生物学から「輝く皮膚科学」とされたそうである。私自身錦織先生は米国に留学時代、Margaret L Kripke 教授と素晴らしい仕事をされていた記憶が強く、光免疫学が専門と思っていたが、神戸大学に着任後すぐに色素性乾皮症の診断システを立ち上げられ、現在、全国の医療施設からの依頼で遺伝子診断などの高度先端医療を行われ、厚労省の研究班では「色素性乾皮症のiPS細胞を用いた病態解明と治療法の開発」研究を行われ、全国でも有数の皮膚科学教室として多くのお弟子さんをに育てられている。また錦織教授は日本色素細胞学会理事長を務めておられ、私が2010年から班長を務めた厚労省の班研究による「尋常性白斑の治療ガイドライン」の作成では大変お世話になり、さらに2年前からは美白化粧品による白斑の疫学研究を御一緒させて頂いている。
錦織先生は会頭の挨拶の中で「皮膚科学はここ数年で、多くの皮膚疾患についての原因・病態の解明や新しい治療法の応用が進み、めざましい進歩がみられています。こうした現在の状況を踏まえ、且つ、これからも学問的に輝き続けてほしいという願いもこめて、今年の学会テーマを"輝く皮膚科学"としました。」と述べられているが、会頭講演ではさらに皮膚科医が本来診療すべき様々な境界領域の疾患を手放しつつある現状を危惧され、「皮膚から全身を診る"心意気を持てば今まで以上に皮膚科医が深く関わっていける領域はたくさん有ると思います」と述べられた。その意味からも今回企画された13の教育講演では境界領域に関わるテーマのセミナーが企画され、私が座長を務めた墨東病院の澤田泰之先生の「皮膚科救急にある危険なトラップ(罠)の見つけ方」は早朝から、立ち見の方で溢れるくらいの先生方が参加されていた。私の教室、関連病院の先生も結構目についたが、このようなセミナーを聞く事でさらに皮膚科の面白さを学んで頂ければと思う。特にご自身が経験された症例を丁寧に記録され、分かりやすく話をされた澤田先生の講演からは参加された先生方は多くの事を学ばれたことと思う。昨今目につく多くの情報や文献を羅列したスライドやコピーペーストのスライドばかりの一方通行の講演より遥かに得る事が多いかと思う。

“皮膚から全身を診る" 、現状は残念ながら皮膚科の存在が小さくなりつつある。

大原先生のスイカとバーコード論 シンポジウムは「いよいよ身近な自己炎症疾患」と「自己免疫水疱症」の2つに加え、2つのスポンサードシンポジウムとCPCが企画されていた。私はCPCでの大原國章先生の「爪のメラノ−マ」と今山修平先生の「空胞変性の今日的意義」を聞く事が出来た。大原先生は多くの爪甲色素線条や爪囲の色素斑の症例写真を提示され、先日の西部支部で玉田先生が言われた臨床写真をしっかり記録する事の重要性を強調された。また最近はダーモスコピーなどの画像をさらにPCに取り込んで、拡大することで悪性と良性の鑑別が可能であるとの考えをスイカの線(悪性で、やや境界不鮮明になる)とバーコード(良性で、拡大しても鮮明)を対比させて分かりやすく説明頂いた。

 今山先生からは空胞変成から液状変成にいたるダイナミックなプロセスを示して頂いた。Interfaceに好酸性に染まる物質は変成した基底細胞である事、そこに沈着してくるムコ多糖などはあまり大きな意味を持たないことなどを述べられた。また免疫操作電顕の手技を用いた、Interface側からの炎症細胞の表皮内への浸潤像など驚くような所見をたくさん供覧して頂いた。一般演題は チオ硫酸ナトリウムにより改善した皮膚石灰沈着症の1例(順天堂練馬病院)四肢、腹部の皮膚潰瘍を契機に診断したCalciphylaxisの1例(東邦大大森)と日常診療で苦労する皮膚石灰沈着症の治療でいづれもチオ硫酸ナトリウムを使用されていた。前者はデブリ後25%のチオ硫酸ナトリウムと酸化亜鉛軟膏を使用する事で著明に改善していた。コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムによる即時型アレルギーの1例(京都府立医大)、プレドニゾロンによる薬疹の1例(岩手医大)はいづれもステロイドによる稀なアナフィラキシーで特にコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムによる症例はアスピリン不耐症とは異なり、救急外来などでも注意が必要と考える。大阪大学からは高橋 綾先生が西部支部大会に引き続き「蕁麻疹様の紅斑を契機に発症した後天性皮膚弛緩症の一例」を、生長久仁子先生が「 大細胞転化した菌状息肉症に対しブレンツキシマブベドチンを投与した一例」を発表された。医工連携シンポジウムは残念ながら座長で聞く事が出来なかったが、天野浩教授の特別講演同様、今後皮膚科領域でもLEDなど新しい線源の光線を使った医療が発展して行くと考える。今大会は、錦織先生のお人柄どおり静かで整然と進み、基礎研究と臨床がサイエンスをベースにうまくMixし、聞き応えのある講演、発表が多かった。唯一、懇親会で同門の原田晋先生が企画されたギターの橋本祐の演奏は奥様の橋本有津子さんがオルガンのカルテットでCool Struttin’から始まるおしゃれな神戸元町にぴったりの演奏が続き、最前列で聴かせて頂いた。

2015年11月2日掲載