医局員コラム
第30回日本乾癬学会
会頭:森田明理 名古屋市大教授
会場:ウェスチンキャッスル名古屋ホテル
会期:2015,9.4-5
テーマ:グローバルトップの乾癬治療を目めざして
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

今回で30回となる節目を迎える乾癬学会に参加した。演題数が150題ちょうどでプログラム誌も以前に比べ格段と厚くなっていた。ただ昨年の高知の学会でも感じたが、多くが生物製剤と関節症性乾癬に関する演題で、基礎研究の少なさや討論の内容が気にはなった。初日の会長講演は名古屋市大の映画研究会(?)製作の教室紹介ビデオが取って代わり、次代の乾癬治療を予感させるインパクトのある大胆な画像で学会が開始された。私自身、今回は3つの用務が重なり、すべてを聞くことができなかったが、昨年ノーベル物理賞を受賞された天野浩先生の講演は素人向きの話ではあったが大変興味深く拝聴した。森田先生は90年代から天野先生とは知己を得られていたそうで、後から聞いた話ではUVA1の強皮症治療から共同研究を開始されたそうで、今はLEDを用いた新しい光線治療法を開発中のようであった。LEDは青色や赤色ダイオードで創傷治癒や培養細胞からのサイトカイン産生が異なるようで、これからの治療への応用が期待される。別のグループの研究紹介でマウスの脳に青色LEDを照射すると興奮し、橙色LEDを照射すると鎮静化し、入眠するそうで、脳細胞がLEDの波長をどう認識し、脳機能がどう調節されているか大変に興味深かった。そのあとの招待講演の高島明トレド大学教授は乾癬における好中球の役割に関する最近の知見を紹介いただいた。乾癬で病態形成にかかわるIL17A産生細胞が好中球である可能性や、乾癬モデルで人為的に好中球を除去すると皮疹が形成されないなど興味深い研究の紹介があった。またLy6、CD11bなど好中球マーカーを持つ細胞をGMCSF,IL4などを含む培養液で飼うと、CD11c陽性の樹状細胞が出現すること、炎症性の疾患でこのような2つの細胞の表面マーカーを持つ細胞が増加することを示された。実際の乾癬で増加しているかはまだ明らかではなさそうで、今後の検討が期待される。
Emergence, origin, and function of neutrophil-dendritic cell hybrids in experimentally induced inflammatory lesions in mice.
Geng S, , Takashima A.  Blood. 2013 7;121(10):1690-700

高島明先生の講演

一般演題、最初のセッションで教室の越智先生が、生物製剤導入を契機に見つかったHIV感染症の2例を報告された。現在HIVは生物製剤使用時の感染症のチェック項目には、含まれておらず、一例目はHIV感染時増悪することが知られている、脂漏性皮膚炎様のSebopsoriasisに近い臨床像、2例目は牡蠣殻状乾癬Rupioid psoriasisという非定型的な臨床像から検査を依頼されたようである。一般的にはHIVは重症の皮膚粘膜の真菌症や日和見感染で見いだされることが多いが、2例ともそのような感染症は見いだされず、その理由として乾癬上皮細胞から大量に産生される抗菌ペプチドが関与しているのかと考えている。またこの2例はHART療法にもよく反応しており、可能性として抗菌ペプチドがHIVウイルスにもある程度の効果を示していたと考えることも可能かもしれない。


講演される越智先生

今回は5会場が並列で行われ、聞きたい演題が重なったが、その中でも特記すべきこととして、一番広いA会場が人で溢れた2日目の本音トークは座長の関係で一部しか聞けなかったが、座長の佐野先生、大槻先生の本音が飛び出し、大変有益なセッションであった。来年も同様の企画をもたれるようである。特に乾癬に安易にStrongestのステロイドを処方すると離脱が困難になり皮膚の副作用が強くでることから座長のお二人ともその使用に警鐘をならされた。また高齢化社会での在宅乾癬治療、シングルマザー(ファーザー)の社会復帰支援に向けた優先順位を加味した治療、など今後継続して検討して頂きたい話題が提供された。その他、私が座長をした生物製剤使用時の肝炎ウイルスの再活性化の問題に関しては、HBsAg(-)でも既感染パターンであれば、造血幹細胞移植患者や悪性リンパ腫患者で再活性化のリスクが高くなることからウイルスDNAのモニターが重要であること、DNA(+)になってもエンテカビルの使用でコントロールが可能になったことを述べられた。また今後使用が予測される制御性T細胞を標的とする抗体製剤、免疫チェクッポイント薬でも再活性化例が報告されており、注意が必要とのことであった。教室関係からは林先生が掌蹠膿疱症と好酸球性膿疱性毛包炎合併した興味ある症例を、東山先生がアダリマブ投与前後でのメタボリックシンドローム関連のRisk factorの変動結果の中間報告を発表された。特に動脈硬化の進展阻止に生物製剤の効果がある可能性を報告された。今大会は昨年以上にバイオ製剤に関する話題で溢れた学会であったが、いみじくも大槻先生がPASI-100を達成するバイオ治療がさらに広がれば乾癬治療の主役がリウマチ内科に移るリスクを危惧する発言をされた。森田教授の主導で作成された光線療法ガイドラインの理解や本音トークで討論された原点にもどる外用療法、あらたな内服療法の登場など皮膚科医が主体で乾癬治療を行う必要性を改めて感じた乾癬学会であった。

2日目、快晴の青空をバックに部屋からの名古屋城。

大阪大学大学院医学系研究科教授 片山一朗
平成27(2015)年9月6日