医局員コラム
第38回皮膚・脈管膠原病研究会
会場:国際医療福祉大学三田病院三田ホール
会長:佐々木哲男 国際医療福祉大学熱海病院
会期:2015.1.23−24
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
 年初の最初の重要な学会である、皮膚脈管膠原病研究会に出席した。前日から東京で用務があり、久しぶりに初日の午前からの出席だったが、すでに結構な数の、しかも他の学会では悪性腫瘍学会くらいでしか見かけない若い男性医師の出席者が目立った。初日午前中は例年に比し、血管炎の演題が多く、活発な議論があった。これは2012年に血管炎の国際Chapel Hillコンセンサス会議による血管炎の改訂があり、病因論や分類が大きく変わった事も影響しているかと思う。特に我々の世代では Wegener, Churg- Strauss, Henoch-Schönleinなどの診断名に慣れ親しんだ世代にはその病名、名前を聞けば、ある程度臨床像や予後、病因論が共通の認識事項として共有できたが、PR3-ANCA, MPO-ANCA, IgA, Hypocomplementemicなど特定の施設でしか診断できず、またその病因論との関わりや特異性が不明の抗体や検査所見で分類する今回の改訂病名はどこかで見直しがあるのではと考える。Hypocomplementemic urticalial vasculitisはGammonの最初の報告例がSLEを合併しており、そのために低補体血症が強調されすぎているのではとの議論があった。またHenoch Schönlein Purpura (Anaphylactoid purpura)はIgA血管炎という無機質な名前になったが、歴史的には、1837年にSchönleinは関節の腫脹性疼痛と紫斑で発症した患者を初めて記述し、1874年にHenochが腹部疝痛・嘔吐・血性下痢などの腹部症状と紫斑で発症した患者を報告したのが本疾患の命名の由来であることを理解しておかないとIgA腎症におけるIgA1の沈着などIgAのサブクラス別の皮膚、消化管、腎などへ沈着した抗体の対応抗原解析を検討した時に混乱が生じる可能性もあると危惧され、私も演題、13、14に発言した。またANCA関連血管炎に関してもEGPA(Churg Strauss症候群)におけるMPO—ANCA陽性/陰性例の病理組織学的検討の発表があった。EGPAではMPO-ANCAは40%前後、MPAでは90%に陽性、またGPAではPR3−ANCAが30%程度に陽性とされるが、今回の発表(演題9)ではMPO-ANCA陽性例では好中球優位、陰性例では好酸球優位の細胞浸潤がみられたとのことで、あらためてEGPAの好酸球の病因論的な検討が必要と考えられる。好酸球の脱顆粒の有無による臨床像の差なども検討が望まれる。
  膠原病に関しては、皮膚筋炎でのMDA5抗体やTIF1γなど新しい疾患特異的かつ急性間質性肺炎や悪性腫瘍などの予後を決定する病態と密接に関わる新しい抗体の研究が進み、近々保険収載されるとのことで、本当に基礎から臨床に還元された素晴らしい成果かと考える。またMechanic hand に関連して抗アミノアシル tRNA 合成酵素(ARS)抗体陽性のPM/DMと診断される例で、筋炎症状を欠き、典型的な皮膚筋炎の皮膚症状を欠く症例をどう位置づけるかという質問をしたが、ARS症候群として経過を観察するというというコメントがあったぐらいで、皮膚筋炎の診断と治療の難しさを再認識した(演題52-54)。シェーグレン症候群が新しく国の難病に指定されたこと、また皮膚症状を重視したSLEの新しい診断基準が提示されたことで、関連する演題の発表も多く、多くの収穫を得た学会であった。さらに子宮頸癌ワクチン接種後に生じたSLE的な病態(演題60)やヒドロキシクロロキンの第3相試験の結果報告(65)なども記録しておくべき発表と考える。大阪大学から発表された山岡、林先生の演題はいづれも興味深かったが、現時点でははっきりとした病態は不明で適切な治療はなさそうで、今後の経過を注意深く観察する必要があると考える。
  2年前のこの会で神崎保先生が、皮膚科からも症例報告のみでなく新たな研究成果を発表して頂きたいとの意見を頂戴したが、今回の発表を聞いた限り、若い先生の新しい視点からの発表が増加しており、その中から生まれる疑問を解決する研究を是非発展させて頂きたいと心より願う。
最後になるが千葉大の神戸直智准教授がWEBサイトに書かれていた「重要な症例を論文として記録する」という私の考え方に対するコメントを紹介し、学会記とさせて頂く。

「症例を記録するということの大切さ」

神戸 直智  → 片山先生
そうなのですよね。実は,それが一番確実な症例情報の保存方法であり,また後生に受け継がれていく貴重な(人類としての)財産となるのですよね。そして,今ある学問は,そうした先人達の蓄積の上に成り立っているのだと,感じる場面があります。築かれてきた先人達の英知を,ただ消費するだけでなく,何かしらを創造して,次に続く者達へと受け継いでいけたら‥‥と思います。

大阪大学大学院医学系研究科教授 片山一朗
平成27(2015)年1月30日掲載