医局員コラム
ISAD 2014 21st-23rd May 2014
8th Georg Rajka Symposium on Atopic Dermatitis
East Midlands Conference Centre, Nottingham, UK
President: Prof. Hywel Williams Univ. Nottingham UK
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 新緑の英国ノッチンガムで開催された第8回 8th Georg Rajka Symposium on Atopic Dermatitis (通称ライカシンポジウム)に参加した。この会はHanifin & Rajkaの診断基準で有名なノルウェーの皮膚科医George Rajka教授が1979年に第1回大会をオスロで開催され以後2〜3年に1回開催されている。日本でも2008年に浜松医大の瀧川雅浩教授を会頭として第5回大会が開催されている。
本第8回大会の会頭はアトピー性皮膚炎の疫学、EBM研究で世界をリードされているノッチンガム大学皮膚科ハイウェル・ウィリアムズ教授で、アトピー性皮膚炎の病因、病態、疫学、治療などに関して招請講演9,口演33,ポスター88題、および、学会企画3企画の発表、講演があった。また大阪大学からは片山、室田、寺尾、小野、山鹿の5名が発表、座長として参加した。

(開会の挨拶をされるWilliams教授)
 我々は初日から参加したが、最初のセッションのテーマは「病因」で,アトピー性皮膚炎でのフィラグリンの遺伝子変異を世界に先駆けて発表したAlan Irvineが最近の知見をReviewした。まずフィラグリンの遺伝子変異があるとネコが悪化因子になることや、ピーナッツアレルギーが生じやすくなるという興味ある話から講演が開始され、遺伝性の皮膚疾患ではEctodermal dysplasiaやWiskott Aldrich症候群などが鑑別疾患として重要であること、欧米と日本ではその変異の頻度に差があること、Extrinsic ADでその頻度が高くなりTh2アレルギーが誘導されやすいこと、皮膚のpHが上昇するとバリア機能が障害されることなどを分かりやすく纏められた。この他一般講演では、29週以前の早産児ではバリア機能の未熟さに反して、アトピー性皮膚炎の発症リスクが低下する、Grass pollenの実験的な曝露で湿疹性の皮膚病変が誘導される(我々が報告したスギ花粉皮膚炎の実験的な証明)、英国などの硬水がアトピー性皮膚炎のリスクを上げる、イヌのピーナツアレルギー経皮感作モデルなど興味深い発表がたくさんあった。
2日目は午前中の「発症機序」のセッションで三重大の水谷教授がマウスの皮膚の掻破音の採音とビデオの掻破行動が正のきれいな相関を示すことを報告された。水谷教授は「Pori Pori」教授としてすでに高名であると聞いた。また浜松医大の戸倉教授は角層の蛋白の網羅的な解析をされており、分化マーカーの差や細菌由来の蛋白をどう除外するかなどの質問があった。午後はヒスタミンがH1,H4レセプターを介して皮膚のタイトジャンクション蛋白の発現を抑制するとの興味ある発表があった。

午後の「予防とその結果」のセッションは私も座長を務めさせて頂いた。Probioticsの予防効果のレビューのあと、スキンケア介入によるアトピー性皮膚炎の発症予防効果の途中経過報告が英国、日本から合ったが。入浴指導などの群とあまり有意差がないような印象で、もう少し多数例で長期の観察が必要と感じた。WilliamsはHOMEI-III研究でOutcome measureのCriteriaの確立を現在進めており、その発表もあった。Symptoms, Signs, Longterm control, QOLなどが重要な評価項目になるということがすでに合意されており、さらに重症度の定義、バイオマーカー、Proactive療法などが討論された。個人的には皮膚の炎症の評価をどう客観的に評価するか、いつ中止するか、用いる外用剤をどう決めるかなど解決すべき点も多い。三日目は帰国のため午前の「治療」のセッションのみ聞いた。重症例の治療アルゴリズム、IL4R抗体の効果などのほかタール療法がAryl hydricarbon receptor を介して皮膚炎を抑えるという興味深い発表があった。 NottinghamはRobin Hoodが活躍した町ということでホームページもNottingham城の前にある像が使われており、我々も記念写真撮影をし、最終日にはNottingham城に立ち寄った。

今大会はWilliamas教授の行き届いた配慮で非常にスムーズに会が進行した。2日目の夜に開催された懇親会ではWilliams教授自身が作詞、作曲されたRaika教授を称える歌が披露され、アンコールの声と拍手が鳴りやまなかった。またRajka記念メダルが婦人からJonathan Silverbergに授与された。
次回は2016年にブラジル、サンパウロで開催される予定である。最近の日本皮膚科学会、アレルギー関連学会でもアトピー性皮膚炎の発表が減っているという印象はあるが、病因、治療、疫学などまだまだわからない点が多く残されており、若い先生方の参加が望まれる。
参考までに今回の発表の抄録PDFを添付するので参考にしていただければと思う。
抄録PDF:
ISAD 2014 Invited Speaker Oral Abstracts V2
ISAD 2014 Submitted Oral Abstracts
ISAD 2014 Submitted Poster Abstracts



大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年5月29日掲載