医局員コラム
大阪大学皮膚科学教室着任10周年を迎えて
「シンクロニシティ:Synchronicity」と「粘菌:Slime mold」
平成26年3月5日

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗


 私と室田浩之君が大阪大学医学部に着任して今年の3月1日で10年が経過し、11年目を迎えることができました。大変ありがたいことに、3月5日と6月21日の2回それぞれ、医局、同門会で祝賀会を開いていただくことになりました。関係者の皆様には、この場をかりて御礼申し上げます。私は大阪大学医学部で研修医、大学院生活を送りましたが、室田君は長崎というのんびりした安住の地から、大阪という魅力的でかつ混沌とした、そして、大阪弁が標準語の街にこられてさぞかし大変だったかと思います。実際、私も20年ぶりに大学に戻った時にはじつに多くの出来事(事件)が続け様に起こり、当時の病院長から門戸厄神にいってお祓いを受けてこいといわれました。しかしその後は多くの医局員や秘書さん、技術員のかたがたの献身的なサポートで、より活力のある、そして多くの情報を世界に発信できる皮膚科学教室に育ってきました。私自身良くコラムなどに「信頼と品位のある人と人との繋がりが何より大事」と繰り返しいってきました。長い人生で、縁もゆかりもない人間が、ここ千里が丘の地で、ある時間を共有し、何かを成し遂げ、そしてまた別の道に進んで行くのは奇跡ともいえる偶然ともいえますし、宇宙の神が書いた必然の出来事なのかもしれません。しかし、この10年間教室に在籍された方々が相互の信頼と尊敬の念を持って、大阪大学皮膚科学教室を発展させてこられたのは紛れもない事実です。「シンクロニシティ(Synchronicity):意味のある偶然の一致、共時性」という言葉は最近ある方から教えて頂いた言葉ですが、まさにこの10年間に大阪大学医学部皮膚科で偶然出会い、そして皮膚科医として成長されてきた先生方、そしてサポートして頂いたすべての方の今後のご自身の人生の目標が達成される事を願います。
 粘菌(Slime mold)は南方熊楠の世界的な研究で有名な植物と動物両方の性質をもつ,非常にしたたかな生活様式をもつユニークな生き物です.「他の星からこの地球に、落ちてきた生物の原型ではないかと」言う生命学者もいます。最終的に子実体と呼ばれる植物的な構造を形成しますがアメーバのように子実体は胞子群とそれを支える細胞性の柄(死細胞)からなり.胞子は適当な条件下で発芽してアメーバ状の細胞となり,周囲の餌(大腸菌などのバクテリア)あるいは栄養豊富な培養液を取り込みながら増殖します(図).湿度、温度、日照などの周囲環境の変化や栄養源が枯渇して飢餓状態になると,単細胞はやがて集合して多細胞体を構築し,分化・パターン形成の方向に移行します(マウンド、スラッグ)。そして環境が改善するとまた元の個々の生命体に戻っていきます。このような粘菌の行動パターンは私が理想とする組織像にかさなります。私自身は大阪大学皮膚科に属する方には個人の個性を大事にし、自分のやりたいことを自由にやってもらうように指導しています。そして皮膚科学教室に危機が迫った時や何か大きなミッションを命ぜられた時などには、個々の医局員が少しづつ機能的なユニットを形成し、最終的には粘菌のマウンドあるいはスラッグとよばれる巨大な集合体を作り、正しい方向性を決定することで、危機を免れ、あるいは目的を達成し、その後は個々の構成員に戻り、また個性的な生活を始めます。この巨大化した組織のヘッドは決して私ではなく、構成員がそれぞれ精神的な繋がりを持つことで生まれた新たな精神・生命体とも言うべきものかと思います。私の目指す大阪大学皮膚科はまさにこのような生命体であり、この10年間でその形が見えてきました。今後また次の10年でどう育っていくか楽しみです。
 今の私の興味は人間の持つ、5感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)をセンシングする分子がすべて皮膚に存在し、皮膚が人間の感覚や存在を規定しているのではないかということを知ることで、すでにロドプシン、TRPなど視覚、嗅覚、味覚などのセンサーの皮膚細胞での存在が明らかにされつつあります。皮膚という臓器の重要さをさらに知り、その異常を是正し、若さを保つ作業の重要性を認識しながら、さらに皮膚科医としての研鑽を積んでいきたいと考えております。この10年間のご支援、ご助言にたいし心より
御礼を申し上げ、お祝いの挨拶とさせていただきます。


細胞性粘菌の生活環
「モデル生物:細胞性粘菌」(前田靖夫氏編)から引用 PP.I -II



大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年3月5日掲載