医局員コラム
第22回世界色素細胞学会 (IPCC) 
Organising President IPCC 2014 :
Dr Boon Kee Goh (Mount Elizabeth Medical Centre Singapore)
会場:Shangri-La Hotel Singapore
会期:2014年9月4日−7日
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗





 第22回世界色素細胞学会がシンガポールで開催され、出席した。この学会は3年に一回,開催され、前回は2011年にAlain Taieb ボルドー大学教授を会頭にボルドーで開催され、我々大阪大学のメンバーも5人が出席した。今回はDr Boon Kee Gohを会頭として、Asian Society for Pigment Cell Research (ASPCR), Dermatological Society of Singapore (DSS), International Federation of Pigment Cell Societies のSister society と27th Annual Scientific Meeting of the DSSの共同開催として行われた



 今学会の会頭のDr Boon Kee Gohは専門が皮膚科で特に白斑の治療を積極的に行われており、4日間の学会の中で白斑の治療の演題が多かった。また学会のテーマは「Bringing colours to life」という魅力的なタイトルであった。
私は前日のVitiligoの診断基準作成の委員会に出席するために一足先にシンガポールに入った。大阪大学からは金田、種村、西岡、揚さん姉、弟(揚飛)の計7名が出席した。
Vitiligoの診断基準作成委員会(Vitiligo Global Issue Consensus Conference)は第一回がボルドーで開催され、新しい分類基準が提唱された(PCMR 2012 May;25(3):E1-13.)以後年2回、程度国際学会などのさいに開催され、Koebner現象や活動性の定義などが論議されてきた。今回は患者の治療の満足度や改善の評価法、重症度など事前にネット会議で審議されてきた事が討論された。参加者も多く、特にインドなど、白斑患者が歴史的に差別されてきた文化的な背景を重視する、乾癬などの炎症性疾患の評価(PASI75)と美容的な要素が加味される白斑の改善度(VASI75)は重みが違うなど活発な討論があった。この委員会をサポートする組織としてアトピーの疫学研究で有名なノッチンガム大学のWilliams 教授のグループがあり、EBMに基づいた世界標準の治療の評価システムの構築が進んでおり、日本からは私と山形大の鈴木民夫教授、聖マリ大の川上民祐准教授が出席したが、今後もより多くの先生が参加されるのが良いかと思う。


Vitiligo Global Issue Consensus Conferenceの参加メンバー

 特に今回ボストンのJohn Harris がIFNγでドライヴされるCXCL10(IP10)が白斑部のケラチノサイトで発現増強しており、STAT1, JAK1をTargetとする分子標的薬の可能性を示唆する講演やTARCの遺伝子導入によるTregの誘導、ラパマイシンの適用など新たな治療薬の登場を見据えた動きと連動していると考えられ、これはアトピー性皮膚炎でも同様の分子標的薬の開発が進んでいる事の裏付けかと考える。このほか印象に残った演題としてはストレス負荷時や白斑部のメラノサイトでe-cadherinが減少し、メラノサイトのケラチノサイトとの接着性の減少、メラノサイトの減少に繋がる(CS38)、重力負荷をかけた白斑部表皮シートでは健常部に比し、メラノサイトが角層側に移動する(ケラチノサイトとの接合性が減少する)(P116)、尋常性白斑の汎発型で色素増強ではなくビタミンD軟膏とルチノール外用で色素ムラが改善する報告(P149)(これはカネボウ白斑の治療に応用可能と考える)、カネボウ白斑の原因物質であるロドデノールがオートファジーの阻害でより低濃度でメラノサイトの障害を生じる事(p113)などがあった。日本での加齢学会での講演のため4日以降はメラノーマ中心の演題が聞けなかったが、今回は会頭がGoh先生であったせいか吸引水疱蓋からトリプシン処理で表皮細胞を得、植皮するなど白斑の演題が多数あり、多くの参加者が色素細胞研究が大きく変化しつつある変換期と認識されていた。次回は2017年にデンバーNorris教授が会頭を努められるとの事である。


演者John Harris 座長はGoh, Taieb, Barsch


懇親会後の懇親会(ラッフルズホテル、Long Barにて)

大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年9月9日掲載