医局員コラム
第1回汗と皮膚疾患の研究会
平成26年8月2日
東京
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 この会は2011年に「汗と皮膚の研究会」として第一回が開催され、昨年まで計3回、開催された。今回、昨今製薬業界のコード規制などもあり「汗と皮膚疾患の研究会」と会の名称が訂正され,その第一回が東京で開催された。当日は江戸川の花火大会で涼しげな浴衣姿の若い人をたくさん見かけたが、汗の研究会にふさわしく、熱い研究会となった。阪大からは私と小野、進藤先生が参加したが、2011年に比し、若い男性医師の参加が目立ち、活発な質疑応答が繰り広げられた。このように活発に若い先生が討論に参加する研究会はかつての免疫学会やある時期の皮膚脈管膠原病研究会など以外あまりなく、久しぶりに会を楽しむことができた。汗の研究が若い人の興味を惹き付けているのであれば何よりである。以下印象に残った発表を記録しておく。
 世話人のお一人の杏林大学の塩原教授がまず基調講演としてご自身の最新の研究成果を発表された。特に歯科用のシリコンを用いたImpression mold法(Shiohara T et al. Current Probl Dermatol 41:68-79,2011)を用いた発汗の研究は初めて聞かれた先生には驚きの連続であったと思うが、塩原先生ご自身は最近の汗の研究が活発になり、その分総説の執筆依頼も増えて、コピペーの連続と謙遜されていたが。特に痒疹、扁平苔癬、アミロイド苔癬が汗管を初発部位とし、Dermocidinなどの汗に特異的な抗菌ペプチドが皮膚に漏れでることで発汗の低下や汗管周囲性の炎症反応が生じること、ヘパリン類似物質含有クリームのODTで発汗と皮膚症状の改善が見られること、2週間の外用でアミロイドが消失(炎症反応と貪食像が見られる)するというびっくりするようなデータを提示された。私も以前からトコレチナート軟膏をアミロイド苔癬に、また活性型ビタミンD3軟膏を痒疹に使用して良い成績を得ているがさすがにアミロイドの消失は見られなかった。ただ炎症反応に伴い改善が見られるとの事で前治療のステロイドの中止の影響などの検討も必要と考える。
 基調講演のもうお一人の先生は千葉大神経内科の朝比奈正人教授による内科医の立場からの発汗異常のお話でAIGA(Acquired idiopathic generalized anhidrosis)や糖尿病、POEMS症候群などの病態に関する最新の研究成果を教えていただいた。私自身、発汗が交感神経支配のアセチルコリン誘導性の現象である事が温熱性、精神性発汗いづれにおいてもあてはまるのか質問したが、はっきりしないとのことであった。また自律神経と知覚神経のクロストークの可能性に関しては反射性交感神経ジストロフィー(CRPS/RSD)で研究が進んでいるそうで、この考え方は減汗性コリン性蕁麻疹などの発症機序にも応用できないかと考えている(参考図)。このほか先日退官された旭川医大名誉教授の飯塚一先生が生後から一歳までの乳幼児の角層機能の大変貴重なデータを発表された。また愛媛大学からは汗に含まれるIL1やIL31がケラチノサイトに作用し、IL6などの炎症サイトカインの誘導を関してインフラマゾーム非依存性に炎症反応を起こす可能性を報告された。 全体の講演を聞いて汗の研究が活発に進んでいる事を感じたが、一つ若い先生に注文しておきたいのは発汗の過去の研究の歴史を十分勉強し、今手に入る技術で何が明らかにできるか? あるいは残された臨床の疑問点を解決するためにどのようなツールの開発が必要か考えて頂くと、さらに汗の研究に対する興味が増すと思う。その場合必ず過去の研究をクレジットし、プライオリテイをはっきりさせて頂きたいし、特に日本の研究者の仕事も適切に評価して頂きたい。かつて田上八朗東北大学名誉教授が日本人の研究者は日本人の論文を引用しないと嘆かれていたことを思い出した。



大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年8月7日掲載