医局員コラム
アレルギー疾患対策基本法案と口腔アレルギー症候群 大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
 先日のアレルギー学会の理事会にて、西間三馨先生から「アレルギー疾患対策基本法案」が6月20日参議院にて可決されたことが報告された。
本法案は医系議員が5年以上(?)にわたりその作成と国会での承認に尽力されてきた法案である。その詳細は公開されているPDFを参照されたいが、その前文に「本法律案は、アレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状及びアレルギー疾患が生活環境に係る多様かつ複合的な要因によって発生し、かつ、重症化することに鑑み、アレルギー疾患対策を総合的に推進するため、アレルギー疾患対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師その他の医療関係者及び学校等の設置者又は管理者の責務を明らかにし、並びにアレルギー疾患対策の推進に関する指針の策定等について定めるとともに、アレルギー疾患対策の基本となる事項を定めようとするものであり、その主な内容は次のとおりである。」と書かれており、一 「この法律において「アレルギー疾患」とは、気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーその他アレルゲンに起因する免疫反応による人の生体に有害な局所的又は全身的反応に係る疾患であって政令で定めるものをいう。」と明記されている。   
 アレルギー疾患が初めて法的に「アレルゲンに起因する免疫反応による人の生体に有害な局所的又は全身的反応に係る疾患」と定義された。西間先生によればこの法案が可決されたことで、アレルギー疾患に関わる国会での審議に対する議員の熱の入れ方が大きく変わる可能性や、従来、アレルギー疾患の対策上欠けていたジグソーパズルの空白を埋める作業が非常にやりやすくなるとの話があった。
 そのあと島根大学の森田栄伸教授を班長とする厚労省研究班「生命予後に関わる重篤な食物アレルギーの実態調査・新規治療法の開発および治療指針の策定」の班会議に出席した。この班では主として成人の重症食物アレルギーである食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)、口腔アレルギー症候群(OAS)、加水分解小麦アレルギー(加水分解小麦成分含有石鹸によるアレルギー)の3つの疾患を対象とし、その実態の解析、治療指針の策定を行っている。私はOASを担当しているが、この班研究の申請を行う前提となったのはアトピー性皮膚炎の患者さんの中に、果物を食べると口腔内の違和感が生じ、皮膚炎の悪化が見られるという方が増加し、かつ低年齢化しつつあった点、生のフルーツが食べられないことで生活のQOLが損なわれていること、数人ではあるが気道症状が強く出て救急病院に搬送された方がいた点などが挙げられ、抗IgE抗体療法などの適応拡大を視野に入れた研究班の立ち上げを森田教授にお願いした次第である。最近はOASという病名もある程度認知され、花粉症が先行する場合などにはPollen food allergy syndrome (PFAS)、カバ花粉、スパイスやセロリ・ヨモギなど複数のアレルゲンが関与する場合Birch-Celery- Mugwort-Spice syndromeなどと呼ばれることもある。ただアレルギーの専門医でも小児科、皮膚科、耳鼻科、内科でその診断と対応には大きな温度差があり、またクラス1、クラス2抗原の線引きや交差する食物と花粉抗原の関連性も必ずしも明らかではない。さらに全国レベルでどの程度の患者がおり、その重症度や治療の実態、合併するアレルギー疾患への影響、予後など全く情報がなかった。また診断も特定の施設にWBを依頼する、あるいは対応する果物を持参して頂きプリック・プリックテストを行うなど一般医が行うには無理があった。最近はアレルゲンコンポーネントの検査が可能になりつつあるが、交差アレルゲンの検討などまだ研究室レベルで、一般化にはもう少し時間を要すると考えられる。今後クラス1,クラス2アレルゲンの抗原呈示と担当細胞や感作経路と惹起される症状の差異、さらに免疫療法の可能性なども検討すべき課題である。F大学のM教授など以前からOASの研究を着実に行われてきた先生方には是非、今回の法案の可決を契機に横断的な診療体制の構築と抗体療法の適応拡大に尽力頂ければと考えている。森田班がその起爆剤になれば何よりと考える。

アレルギー疾患対策基本法案


大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年7月8日掲載