医局員コラム
2012年年報序文
「皮膚科研究の新しい流れ」

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学
皮膚科教授 片山一朗


 今年も年報を発刊する時期となりました。2012年は2004年に大阪大学に着任以来、着手した研究がようやく論文化されるようになった、私とっては大変大事な年になりました。スーパーローテート開始の年から2年間は関連病院の人事も含め、とても落ち着いて研究が出来る環境ではありませんでしたが、教室や関連病院の先生の理解と協力で若い先生が研究に興味を持ち、大学院にも進む方がふえてきました。留学希望者の減少が論議される昨今ですが、昨年から今年にかけては大学院修了者も含め米国に留学し、あらたな環境で研究を開始したいと希望する人も現れるようになりました。マンパワー不足は大阪大学のみでなく全国的な現象ですが、留学というチャンスを得られた先生は是非その成果を大阪に持ち帰り、次の世代の先生に伝えて頂きたいと思います。
 さて最近の研究のトピックスはiPS細胞の作成とその臨床応用に集中していますが、もう一つの大きな流れが生体イメージングかと思います。そのパイオニアである石井優教授の講演を始めて拝聴したのは今から5年前位の教室主宰セミナーで、そのライブ画像の素晴らしさは教室の先生にも大きなインパクトを与えてくれたようです。私自身は大学院生の頃、恩師の西岡先生が皮膚の血流の測定機器開発研究をされていた時、皮膚の炎症細胞の動態を見ることの出来る機械を開発し、新たな皮膚の病理学を創り出したいと仰っていたことを思い出しました。その当時の技術では無理ということでしたが、30年以上の時を経てその願いが実現したことになります。教室では数年前からアトピー性皮膚炎患者のバリア機能解析と発汗機能の解析研究を開始し、Optical coherence tomography(光干渉断層法)という機器を使い、汗孔から排出される汗のビジュアル画像の解析研究をしていましたが、石井研の大学院生を通じて汗腺のライブイメージングにも成功しました。研究を行った松井先生、室田先生の撮影された世界で初めての能動発汗の画像を見せていただいたときには本当に感激しました。現在さらに他の研究プロジェクトにもこの方法を用いて面白いデータがでてきており、従来の二次元皮膚病理学から三次元皮膚病理学、さらに時空を越えた四次元皮膚病理学の時代が来る日も近いことが予感されます。また新しいトレーサーを用いたfMRIをマウスで検討することが出来る時代になり、今まで不可能と考えられていた新たな生体イメージングも可能になってきています。皮膚科学は元々皮膚疾患を医師自身の眼で直視し、病理所見を観察することで最終診断を行う学問ですが、新たな生体観察法技術の出現は皮膚科医の専売特許であった皮膚の病理学がより広い臨床分野に広がることを予想させます。これに近いことは生物製剤による乾癬などの治療にもあてはまるかもしれません。21世紀となり医学の基礎研究は驚くほど急速に、かつ、着実に進んでおり、その研究領域の境界は益々ファジーになりつつあります。iPS研究が皮膚の線維芽細胞の初期化から始まったように、我々皮膚科医も皮膚という臓器を大切にし、そこで起きている生命現象を理解する新たな研究手法を創り出す必要があります。この努力を怠れば、皮膚科医の存在価値は基礎研究のみでなく、臨床医学の分野でも消えていくのではと考えています。今年5月に英国エジンバラで開催される国際研究皮膚科学会(IID)に出席する予定ですが、世界の皮膚科研究がどのような方向に進もうとしているのか、自分の眼で確認することを楽しみにしています。

 大阪大学皮膚科 片山一朗
2013年3月12日