医局員コラム
皮膚科疾患の病名と診断名を考える

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗


 第36回皮膚・脈管膠原病研究会報告の続きで、一部重複するが個人的な意見も含め感じたことを述べたい。またご意見をいただければ幸甚である。

 一つは今回、血管炎のセッションなどで討論があった血管炎の新しいChapel Hill分類に関する討議でChurg-Strauss SyndromeがEosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis (EGPA), WegnerGranulomatosisが Granulomatosis with Polyangiitis、Henoch–Schönlein purpura PurpuraがIgA Vasclulitisと言う病名に変わるなど我々が長年なじんできた病名が消え、診断名として組織所見や病因にもとづいた名前が採用されたことである。また極力最初の記載者の名前を外していることも特徴で、その背景にはナチスに協力した最初の報告者を外すためなどの理由があったと聞いた。臨床的に蛍光抗体直接法ができない施設では診断できない、あるいは関節症状や消化管症状がないがIgAの沈着が見られる皮膚の血管炎も同じIgA Vasclulitisという病名になる可能性がある。以前西山茂夫先生が皮膚病診療で指摘されているように学術的な統計や疫学調査に加え、最近はその結果のガイドラインや治療アルゴリズムへの適用などより幾つかの病名の候補から簡便で普遍的な診断名が選択される時代的な要請もあるかと考える(※西山茂夫 皮膚病診診療1989. 11:547)。ただ皮膚疾患の場合、同じような皮膚の表現型でも病因論が異なる場合や炎症性疾患の場合、組織反応が採取部位、経時的な変化、全身疾患、年齢的な影響を受けることに加え、複数の疾患が合併することも多く、当然治療への反応性も異なる。今後皮膚科医全体で考えていくべき大きな問題かと考える。

 二つめの問題点として、今回もMorpheaとして報告された症例報告の組織反応としてLSAとする意見とMorpheaの立場からの意見が見られた。以前他誌で「似たもの同士」という企画があったが、明らかに異なる疾患の鑑別に関する論点が中心であった。もともとLSAは歴史的には1887年のHallopeauの報告以来Morpheaとの異同が論議されてきたが、その決着は得られていない。2003 年にLSAではextracellular matrix protein 1に対する自己抗体が高頻度に見られることが報告され(Oyama N Lancet 2003. 362:118-23.)その後も検討が続けられている。また我々も一人の患者に扁平苔癬、LSA, Sclerodermaの3つの異なる病理組織所見を認め、同様の症例が弘前大学からも報告されている(Sawamura D et al. J Dermatol 1998. 25:409-411.)。さらに最近Bullous MorpheaとLSAの合併例がトルコから報告された(Sirin Yasaret al. ,Ann Dermatol 23, Suppl. 3, 2011)これらの点よりLSAとMorpheaは似てはいるが異なる疾患としたほうが良さそうである。同様の議論は数年前のこの会でAtrophoderma of Pasini PieriniとMoroheaの異同に関してあった。この2疾患も1923年の報告以来Morphea との異同の論議が続き、JablonskaのMorpheaのスペクトラムの疾患という論文で決着がついたかと考えられてきたが、対立する意見もあり、また最近はBorrelia burgdorferi感染症を重視する論文も増えてきている。Atrophoderma of Pasini PieriniはAtrophic scleroderma d’embleeとも呼ばれるように硬化期を欠き急速に萎縮期に移行する特殊なMorpheaと考えられてきたが、Morpheaと言う病名に起因するLilac ringとよばれる特徴的な紫紅色調変化は見られず、やはり病因論的には異なる疾患と考えた方が良いとも考える。ただ組織硬化の点から見ると我々が検討しているTNFαR のノックアウトマウスではブレオマイシンの投与で通常4W程度かかる組織硬化がたかだか2日で生じ、2Wには萎縮期に移行する所見が見られる(Murota H et al. Arthritis Rheum. 2003; 48:1117-25.)ことより、同様の経過がPasini Pierini型のAtrophodermaで生じているのかもしれない。いづれにしても以前の本会にはこのような論争に決着を付けていただけるたくさんの先生が参加されていたが、それぞれの専門領域がより高度で狭まり、研究や雑務にとられる時間の増えた現在、もう一度原著にもどり、組織を良く観察する努力が必要と反省する。

 最後の点として1,2の議論とも関連するがやはり皮膚科医は発疹や病理組織の細かい所見にこだわりを持ち続けることと、多くの仲間と学会や研究会で討論すること、新しい知見を得る努力と時には原著に戻り、問題となる疾患の歴史的な位置付けを勉強することが重要で、そのことが新しい病因論の提唱や研究分野の開拓につながるのではないかと考える。

 「西山茂夫 皮膚病診診療1989. 11:547」については著者の西山茂夫先生および株式会社協和企画の掲載許可を頂いています。

 大阪大学皮膚科 片山一朗
2013年3月(一部訂正)