片山一朗教授コラム
2013年を迎えて。
OKYとイクジイ

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗


 2013年を迎え、私も時計の針をリセットし、新たな気持ちで皮膚病診療と研究に取り組んで行きたいと考えている。
 昨年暮から新年に届いた日本皮膚科学会雑誌で女性医師問題と新しい専門医制度が大きく取り上げられている。皮膚科の危機が叫ばれて久しいが、スーパーローテート制度同様、国が医療政策の一環として第三者による専門医認定機構によるあらたな専門医制度の導入に本格的に舵をきった事で、従来の皮膚疾患の診療形態が大きく変わる事が予想される。その詳細は塩原教授がJDAレターに詳しく書かれているので是非一読して頂きたい。
 アメリカでは皮膚科はDepartmentから内科の一部門としてのDivisionに格下げ(?)されている施設が増えているようで、名門の大学でも皮膚科以外の出身の主任教授が誕生し、外来もDay surgeryなどの収益がでる診療に特化されつつあるとの話しも聞く。また米国で開業された先生に伺うと治療の決定権は保険会社が握り、医師の裁量権はないに等しく、またバカ高い医療保険の支払いが限度となりつつあるのが現状とのことである。実際私の外来に来られた方がアメリカで黒色腫の手術をすると1,000万近くかかるので日本で手術を受けたいとの話しや韓国への医療ツアービジネスが繁盛しているとの話しも聞く。同様の事は英国でも起こっているようで、オーストラリアなどに移住する医者も増えているようである。このような中、包括的なTPPの導入によるアメリカの保険会社の参入が危惧され、塩原教授のおっしゃる黒船の来襲が目の前迄迫っている。過去、元寇では神風が吹き、幕末の変革期には勝海舟や吉田松陰などの有能な人物が多数現れ、日本の植民地化を未然に阻止した。今回の医療改革に関しては皮膚科の場合、病院皮膚科の低い売り上げや重症患者の診療拒否(マンパワー不足)、に加え、塩原教授の危惧されているように総合診療科の導入による診療科存続の問題が現実のものとなってきた。このような逆風の中で皮膚科学会でも先に揚げた問題提起が開始された。
 過去の歴史は大きな変革の波を止めることは誰にもできないことを教えている。このような状況に対応するためには正確な情報の共有や現場の医師も交えた討論と国への働きかけが何より重要かと考えるが、現状は塩原教授が述べておられるように必ずしも十分ではない。女性医師問題はここ数年橋本公二前理事長などのご尽力で問題点と対応策が目に見える形で共有出来るようになってきたが、個々の医局の事情もあり、理想と現実の大きな乖離から、次のステップに進んでいないのが現状かと考える。
「OKY」と言う言葉は今年、元日の日経新聞の一面の掲載されていた記事からの引用で「お前、来て、やってみろ」の略語とのことである。海外や企業の現場の第一線で苦労されている方々がお題目のみ唱える執行部に向かって使う言葉らしい。私自身偉そうな事を言える立場ではないが、今我々にできる事は他科から、そして患者から信頼される医療を提供すること、そしてその医療を担ってくれる若い世代を責任を持って育てて行く以外にないと考える。そのためには今こそ皮膚科の面白さを率先して教える献身的なリーダーを支援し、また「OKY」と言わざるを得ない現場の医師の声をもっと取り上げて行くこと、「イクジイ」(イクメンにはもはや頼れない?)に代表される退職された有能な医師に積極的に女性医師をサポートして頂く事かと考え、私の教室でも実行している。 昨年末に届いた111回日本皮膚科学会総会のProceedingに「東日本大震災の福島県皮膚科診療に与えた影響と、福島医大の今」という論文が掲載されている。その是非を問う資格は私にはないが、震災後も現場に留まり、劣悪な環境下と風評の中で皮膚科医としての職務を全うされた福島医大皮膚科教室の7人の先生方には心からの賞賛を送りたいし、それぞれの与えられた環境で頑張る全ての医師に大きな勇気を与えて頂いたと感謝する。

「してもらうことばかりのみ求むるは
 年若けれど心は老いたり」

2017年の開国に備え、準備するために皮膚科医の叡智の結集が必要であるが最後の言葉は今年頂いた塩原教授の賀状から紹介させて頂いた。私も心が老いないように、若い先生方と一緒に前に進みたい。


2013年1月