医局員コラム

皮膚科の面白さをどう伝えるか

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗


 前回の本稿で述べたように,今年で皮膚科医になり35年を迎えるが数ある医学分野の中で,皮膚科という,特殊な科(?)を専攻したかと,新ためて考えてみた。以下の文は私が研修医1年目に大阪大学皮膚科開講75周年に寄稿した雑文で当時の私の気持ちを書いた部分の一部の抜粋である。「私が皮膚科を選んだ理由として、学生時代,病棟実習で皮膚科をローテートした時,T先生の言われた言葉が大きな比重を占めていた様に思う。それは次の様なものである。『皮膚科というのは,他科に比べ,割と暇な時間が持てやすい,医学以外の分野に首を,つっ込む事も可能である。事実背はそういう人物が皮膚科には多かった。しかし一万で,皮膚科程未知の部分が多く残されている科は他にない諸君にやる気きえあれば,こんな奥行の深いおもしろい分野は少ない。』
 1年間という短い期間ではあるが,種々の疾患を持った人々が,原因も分らないまま,対症療法に甘んじている姿を見るにつけ,この言葉が思い出きれ,何かやらなければという気にさせられる。まだ臨床経験が零に等しい私ではあるが,生体が,皮膚というキャンバスの上に,かくも多彩な表現をし得るという事も大きな驚きであった。今,皮膚科医としてスタート地点に立ったばかりの私であるが,この生体の作り出す神秘な現象の1つでも解明出来ればと考えている。そして多くの先生運に一歩でも近づく様努力したいと思う。」このような気持ちで以後多くの大学、病院で皮膚疾患を持つ患者の診療を行って来た。今あらためて皮膚科の魅力を考えてみると、皮膚科学という学問は皮膚疾患を持つ患者の発疹の観察と病歴の聴取から五感を総動員して診断し、必要なら自分で生検して,病理診断を行い、最終の最も適切な医療を選択するという自己完結型の医療を行えることある。自分で色々な文献を渉猟して、今迄にない病態を見いだした時や多くの医療施設を廻り治らなかった疾患が自分の考えた治療を行う事で、瞬く間に軽快し患者さんから感謝される時の歓びは、皮膚科医に成って本当に良かったと思う瞬間である。今も新たな治療の開発が要求される難治性の皮膚疾患は悪性黒色種などの皮膚腫瘍や強皮症などの膠原病疾患、先天性疾患など多く残され、その治療や新規治療の開発に全力を尽くしている。難治疾患とは別に、今後皮膚科医として明らかにしたい病態や治療としてシェーグレン症候群の環状紅斑がどのような機序で生じるか、尋常性白斑の色素異常を病因論に基づき、どう治すか、アトピー性皮膚炎の根本的な治療をどう行うかなどがある。白斑のガイドライン作成やアトピー性皮膚炎の疫学研究や厚労省の班研究などにも採択され、また先に挙げた難知性疾患は多くの基礎の先生方との共同研究で新規治療の開発を進めている。このような研究をとおして皮膚科の面白さを教室の若い先生方に伝えて行きたいと考えている。
2011年