医局員コラム

北京オリンピックと専門医教育

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗


 チベットの弾圧、四川大地震、聖火のボイコットなど開催が危ぶまれた2008年第29回北京オリンピックですが、いざ蓋を開けてみますと陸上男子のウサイン・ボルト(ジャマイカ)の世界新記録や競泳男子の. マイケル・フェルプス (米国)の金メダル8個など、毎日夜更かしで、テレビに釘付けになられた先生も多いと思います。その中で中国、韓国の躍進がめざましく、地元開催国とはいえ、中国はスポーツ大国の米国のメダル数を抜く、素晴らしい成績でした。また女性球技選手の活躍が以前にもまして眼についた大会だったかと思います。
 連日オリンピック中継を見ていると、選手の育て方やコーチングの哲学、
その競技の連盟や理事会のあり方などで、メダル組と一回戦敗退組に大きく分かれ、同じような現象が皮膚科や医学の世界にも起きつつあることが分かり、あれこれ考えてみました。
2015年の世界皮膚科学会が、ロンドン、ローマを押さえ、ソウルで開催されることが、昨年のベノスアイレスの総会で決まりました。韓国のユン教授が綿密な事前活動をされていたことに加え、韓国の基礎科学のレベルが急速に上がってきているのがその勝因かと思います。また韓国とならんでNatureやScienceをはじめとした一流雑誌に中国人の著者名を見ることが多くなって居ます。この理由としては、彼らが国の威信と自己の誇りをかけて、研究を行い、
切磋琢磨して、より良いポジションを目指し、国も強力な支援体制を整備していることが挙げられるかと思います。丁度オリンピックの長期の展望下での選手強化と同様のスタイルです。日本勢の中ではソフトボールの金メダルを筆頭にホッケーのサクラジャパンやサッカーのナデシコジャパンなど女子の活躍が目立ちました。彼女らには日本を代表して戦っているという気迫とゲーム楽しむ余裕があるように感じられました。それに比較して球技の男子チームや国技の柔道は全く情けない限りで、スポーツ選手としてのモチベーションが全く感じられませんでした。
 話は突然変わりますが、スーパーローテート開始後、地域格差は存在しますが、元気でやる気のある女性医師の皮膚科への参入が顕著です。しかし結婚、出産、育児の過程で、復職が困難となる方も多く、結果として、少ない男性医師のモチベーション低下、基礎研究、難治性疾患に取り組む若い皮膚科医の減少に繋がり、皮膚科全体の活力を削ぎつつあります。現在スーパーローテート研修の短縮や卒前教育への前倒し、大学院生の奨学金の見直や医学部定員の見直しに加え、ようやく女性医師のサポート体制が論議の俎上に上がり始めていますが、産科、小児科、麻酔科などへの国を挙げての支援の裏返しとして、皮膚科バッシングが強まり、定員削減や後期研修終了後のポストの制限などデフレスパイラルに陥ることが予測されます。皮膚科の中堅層の開業や新規研究者の減少は近い将来の皮膚科の存在そのものを揺すぶる大きな要因になるかと危惧します。
 このような現状に対し、皮膚科学会でも全国の大学レベルでの皮膚科医定員数の設定、大学間の人材派遣での連携、基礎研究の推進などが論議されていますし、大阪大学の皮膚科関連施設ではそのマイナー版がすでに始められています。是非後期研修をされている先生もオリンピックの女子選手を見習い、医療技術の修得はもちろん最優先されますが、それに加え、自分自身が
医師としての誇りを持ち、ワクワクするような時間が持てる診療、研究のテーマを見つけて欲しいと思います。私自身、指導医として10年後そして、さらに先の将来を見据え、しっかりした視点で皮膚科医を育てて行きたいと自戒するとともに、大学、関連病院、同門の先生方にもにもあらためて協力をお願いする次第です。
2007年