医局員コラム

皮膚科のレッドデータブックリスト

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗


 スーパーローテート制度が開始されて3年が経過し、多くの医療を取り巻く問題が噴出している今日この頃です。昨年は2年間の新規入局者零の厳しい時代を経験した後の久しぶりの新人を迎え、新たな医師教育が動き出した年でした。しかしマスコミ報道に見られるように、都市部と地方、診療科間で医師の偏在の見られることが国民にもはっきり分かるようになり、結果として国民、医師、行政担当者それぞれが不利益を被る時代に入ったようです。またマスコミの偏向した報道はその傾向に拍車をかけ、医療行政への批判も日に日に強まってきております。我々の大学でも大学での勤務より市内の関連病院を希望される方が多く、また大学自体の後期専攻医枠も定員があるため病棟担当医も含め、一人の医師にかかる負担が目に見える形で増加しています。特に我々の診療圏では重症患者や色々な意味で対応の難しい患者が紹介されてくる関係でどの診療科も勤務医師の疲弊が目につきます。医学界全体を眺めてみても、近年の医学界流行語大賞にもなりそうな小松先生の名付けられた「立ち去り方サボタージュ」により勤務医を辞めていく医師が増える一方のようです。この背景には法人化にともなう国からの経営効率の改善の標的として勤務医が直撃を受けたことと、一部のマスコミによる過剰な医師へのバッシングによる、医師としての尊厳の喪失感によるところが大きいかと思います。先日ある人から地域基幹病院の指導医クラスの勤務医は絶滅の危機に瀕しており、レッドデータブックのリストに載るかもしれないとの冗談を聞きました。しかし現実にはその冗談が本当になるかもしれないとの危惧が日増しに強くなっているのは私だけではないと思います。医師としての基本は患者さんの病気を癒すことであり、そのためには絶え間ない自己研鑽が要求され、より良い医療を提供するために、より高度な医療技術の修得に励み、またその過程で基礎研究の道を選択することで、医学が発展してきたと思います。このような本来医師としてスキルアップしていく環境が無くなりつつある現況を打破し、それぞれの診療科の伝統を次の世代に引き継いでいくためには、情報を広く共有し、勤務形態による役割分担をより明確にし、基礎研究の面白さを一人でも多くの若い人に伝えて行くことが最も重要と思います。私の周りを見渡してみると、泊まり込みで重症の患者さんを診る研修医、臨床の視点を大事にする大学院生、創造的な研究者、多忙な中で自分の経験を論文化し、患者さんの視点で診療の出来る医者、子供を背負って試験管を振るママさん医師など近い将来レッドデータブックリストに乗りそうな絶滅危惧種が目白押しです。もう一度皆さんの力でこれらの貴重な危惧種を再生し、臨床に根ざした研究を推進し、マニュアル医療、マニュアル研究から脱却して夢のある臨床医学への路を拓いて行きたいと夢見る今日この頃です
2005年